Amazon Q Business は本当に実務で使えるのか?Amazon Q Business だけで1週間過ごしてみた検証レポート

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ChatGPTやGemini、Claudeなどの生成AIサービスがビジネス現場で普及する中、

「自社でも生成AIを活用したいが、セキュリティや運用、コスト面で導入に踏み切れない」

「すでにAWSを利用しているのだから、Amazon Q Business が気になる。しかし、非エンジニアの社員が本当に使いこなせるのだろうか?」

そんな疑問や不安を抱えている、企業のIT担当者やDX推進者の方も多いのではないでしょうか。

本ブログでは、Amazon Q Business だけで1週間過ごしたことで見えた、Amazon Q Business 導入が効果的なユースケースや利点・限界・運用上のポイントなどを整理します。

検証に関する前提情報

目的

  • Amazon Q Business の導入によって、非エンジニア目線で日常的にどれだけ生成AIを業務に取り込めるか、そして業務効率を上げることができるのかを検証する

ペルソナ(想定利用ユーザー)

  • AWSを利用しているが、ChatGPTやGeminiなどの生成AIサービスは利用していない企業
  • 生成AIを利用するユーザーは、非エンジニアが大多数
  • 数名〜数十名程度の小規模な組織内で限定的に利用(管理負荷の観点から、全社員に対して展開はしない)

実現したいこと

  • 顧客からの問い合わせ(カスタマーサポート)、組織内部での問い合わせ(サービスデスク)などに対応する時間を削減したい。
  • 文章修正、資料作成、アイデア出し、壁打ち相手など、日常業務に活用して、対応工数を削減したい

結論

AWSをすでに利用している企業で、セキュリティを重視しながら、ITに詳しくない社員でも簡単に使える生成AI導入をお考えの場合に最適です。

社内の情報活用や日常業務の効率化が、IT管理の手間をかけずに実現できます。

Amazon Q Business の導入が効果的なケース

  • AWSをすでに利用している

    • 既存のAWSセキュリティ基盤(SOC, PCI準拠など)を信頼しており、導入時のセキュリティ評価をスムーズに進めたい。
  • 生成AIの利用者が「非エンジニア」中心の企業

    • 複雑な機能よりも、シンプルな操作性(チャットと簡単なアプリ)を重視し、現場の抵抗なくAIを浸透させたい。
  • 定型業務の効率化を目指す

    • 「議事録の要約」「メール文面の下書き」「資料のレビュー」といった日常の定型業務を、ボタン一つで(Amazon Q Appsを利用して)効率化したいと考えている
  • インフラの運用負荷を最小限にしたい企業

    • 基盤のメンテナンス(パッチ適用など)をAWSに任せたい(マネージドサービスを好む)。
  • 「社内ナレッジの活用」を主な目的とする企業

    • 社内規約、マニュアル、手順書などをAIに参照させ、問い合わせ対応や資料探しの時間を削減したい。
  • 小規模な導入を計画する組織

    • まずは「数名〜数十名程度」の小規模な組織や部門で限定的に利用を開始したいと考えている企業。
  • 参照するデータが「中規模」かつ「固定化」されている

    • 参照するデータが、SaaSのストレージのように「増加し続ける」ものではなく、「ある程度固定化されている」(例:製品マニュアル、社内規約など)。
    • 参照するファイル数が膨大(数百万ファイル、数十TB)ではなく、Enterpriseインデックスの上限(50ユニット)に収まる。
  • 海外リージョン(バージニア北部など)の利用が許容できる企業

    • (2025年10月現在で)データ保護ポリシー上、日本国内(東京リージョン)にデータを留める必要がない。

Amazon Q Business の導入が効果的ではないケース

  • データ保護ポリシーで国内保存が必須
    • (2025年10月現在で)東京リージョンで利用できないため。
  • 膨大な(数TB、数百万ファイル)データをRAG(Retrieval-Augmented Generation)で扱う
    • Enterpriseインデックスの容量上限(50ユニット)を超えるため。
  • 応答速度や機能性を重視している
    • ChatGPTやGeminiレベルの応答速度を求めている。また、プロジェクト管理機能や高度なカスタマイズ機能など、多機能な生成AI製品を求めている
  • 50MBを超える大容量PDF(数千ページ)を頻繁に参照する必要がある
    • ファイル分割などの前処理が必要になるため。

1週間で分かった、Amazon Q Business のGoodポイント

Goodポイント①:非エンジニア向けのシンプルな機能性

知名度が高いChatGPT、Gemini、Claude といった生成AIサービスは利用している基盤モデルは非常に優れていますし、多機能なものが多いです。とはいえ、多種多様な機能(プロジェクト管理機能や高度なカスタマイズ機能)は非エンジニアにとってはハードルが高く、結果的に「生成AIを使うのは難しい」「私では使いこなすことはできない」と生成AI利用に消極的になってしまう可能性があります。

その点、Amazon Q Business は良い意味で主要機能を「General knowledge」「Company knowledge」の2つに絞っており、ユーザーはどちらの機能を利用するかをUI上で選択し、チャットするというシンプルな利用方法です。機能を絞ったAmazon Q Business は日常業務との相性が良く、結果として現場での受け入れやすさにつながるのではないかと感じました。

General knowledge(基盤モデルと直接チャット)

General knowledge はAmazon Q Business が利用する基盤モデルと直接チャットをする機能です。資料作成、文章要約、文章校正、アイデア出し、など、チャット上で取り扱う情報の正確性(Accuracy)や鮮度(Recency)があまり重要ではない場合に向いています。言い換えると、ハルシネーション(幻覚)による影響を受けにくいタスクに向いています。 たとえば、「これから入力する文章をですます調にしてください。」というタスクであれば、ハルシネーション(幻覚)は起きないので、General knowledge で問題ありません。

Company knowledge(社内文書を参照してチャット)

Company knowledge は事前にデータソースとして同期させた社内文書を参照してチャットする機能です。Word、Excel、PowerPoint、PDFなど既存ドキュメントの情報を参照して応答を返します。Amazon Q Businessはこうしたドキュメントを横断的に検索し、要点を抽出してくれるため、資料を探す時間が大幅に短縮されます。単純なキーワード検索と比べて、文脈に即した回答が得られる点が実務向きです。

たとえば、新入社員や他部署からの問い合わせに対して、社内文書を検索してから回答するといったことはよくあると思います。そういった時に、この機能を利用することで問い合わせ対応の負荷が下がります。もし可能であれば、新入社員や他部署メンバーに対して、Amazon Q Business のアカウントを発行することで、そもそも問い合わせ件数自体の削減につながります

Goodポイント②:Amazon Q Apps を使って、生成AIアプリケーションを簡単に共有できる

Amazon Q Apps Creator を利用すると、コンソール上で軽量のアプリケーションを作成することができます。例えば、「ユーザーが入力した文章を英訳してください」と入力するだけで、簡単にアプリケーションを作成できます。

Amazon Q Apps を使って目的に応じたアプリケーションを作成すると、定型業務(例えば議事録の要約、メール文面の下書き、資料のスライド要約など)がボタン一つで完結します。

管理者が検証済の生成AIアプリケーションをボタン1つで共有できるので、実際に利用するユーザーはAmazon Q Business に対して細かい指示を出さずともボタン1つで処理が完結し、業務効率が上がります。

以下、Amazon Q Apps で作ってみたアプリケーションをいくつか紹介します。

その1:プロンプトジェネレーター

生成AI活用においてよくある質問として「生成AIに高い精度で回答させるためのプロンプトを作成するのが難しい」というプロンプトエンジニアリングの問題があります。

このアプリケーションでは、「OpenAI」「Google」「Anthropic」が公開しているプロンプトガイドをもとに、ユーザーが入力した未完成のプロンプトを最適化しています。

その2:提案書・プレゼン資料レビュワー

作成した提案書・プレゼン資料を添付してボタンをワンクリックするだけで、「経営者目線」「上司目線」「顧客目線」の3つの目線から資料をレビューしてくれます。

提案書の作成と改善のサイクルを早く回し、短期間で完成度の高い提案書を作成することが期待できます。

その3:Well-Architected Framework レビュワー

これはAWSを扱うエンジニア向けのアプリケーションです。AWS上で新しいシステムを構築する際に、アーキテクチャ図を添付してボタンをワンクリックするだけで、Well-Architected Framework の観点からレビューをしてくれます。

レビュー観点は、Well-Architected Framework の公式ドキュメントを参照するようにしています。

Goodポイント③:AWS利用企業にとっての導入障壁の低さ

Amazon Q Businessは、以下の第三者機関認証に準拠しており、強固なセキュリティ基盤の上でサービスが提供されています。

  • HIPAA(Health Insurance Portability and Accountability Act) - 医療保険の相互運用性と説明責任に関する法律
  • SOC(System and Organization Controls)1、2、3 - システムおよび組織統制に関する認証
  • PCI(Payment Card Industry) - ペイメントカード業界データセキュリティ基準
  • ISO 42001(International Standards Organization) - 国際標準化機構による認証

docs.aws.amazon.com

企業がOpenAIのChatGPTや、AnthropicのClaudeなどの生成AIツールを導入する際には、セキュリティの堅牢性などを多角的に評価した上で、意思決定することが一般的です。

その点、Amazon Q Business は、基盤となるAWSがHIPAAやSOC、PCIなどの第三者機関認証を取得・準拠しているため、エンタープライズ企業が安心して導入を検討できる強固なセキュリティ基盤を持っています。

このため、AWSをすでに利用している企業は、共通のインフラストラクチャに対する評価プロセスを比較的スムーズに進めることができます。

ただし、安全な運用には、AWSの責任共有モデルに基づき、お客様自身の責任範囲における適切な設定や、AI特有のリスク(ハルシネーションやバイアスなど)への対応策の策定も不可欠です。

Goodポイント④:運用負荷が低い

Amazon Q Business はAWSマネージドサービスであるため、基盤インフラストラクチャのパッチ適用やメンテナンスはAWSが担当します。これにより、インフラ管理の運用負荷を大幅に軽減できます。

ただし、RAGで利用するCompany knowledgeのデータソースについては、最新かつ正確な状態を保つために、利用企業側での管理とメンテナンスが必要です。これはAmazon Q Businessに限らず、RAGを利用するシステムに共通する運用要素です。 結果として、これらの要素を適切に管理することで、最小限のインフラ運用負荷で済みます。

1週間で分かった、Amazon Q Business のBadポイント

Badポイント①:データソースに同期できる単一ファイルと抽出テキストのサイズ制限

今回の検証では、Amazon Q Business に連携するドキュメントは、Amazon S3をデータソースとして連携しました。

PDFを含む「その他のファイル」は、1ファイルあたり最大50MBである必要があります。動画ファイルは10GB、音声ファイルは2GBまで対応していますが、PDFなどの一般的なドキュメントファイルは50MBが上限です。

AWS公式ドキュメントのPDFをいくつかデータソースとしてAmazon S3にアップロードしましたが、なかでも大容量だったAWS Configのファイル(15,224ページ、78.2MB)とAmazon Auroraのファイル(4,997ページ、58.7MB)は同期できませんでした。

さらに重要な点として、ファイルから抽出されるテキストの最大量が5MBに制限されています。元のPDFファイルが50MB未満であっても、そのファイルから抽出されるテキストが5MBを超えた場合、そのファイルはインデックス化(データ抽出→チャンク化→ベクトル化→DB保存)されません。

AWS Config や Amazon Aurora など、一部の大容量ドキュメントを除いて50MB未満で収まったので、大抵のドキュメントは問題ないと思いますが、50MBを超過する場合はあらかじめファイルを分割しておく必要があります。

Badポイント②:東京リージョンで利用できない

2025年10月現在、東京リージョンでの利用はサポートされていません。また、Amazon Q Apps の全機能を利用するためには「米国東部(バージニア北部)」「米国西部(オレゴン)」を利用する必要があります。

社内のデータ保護ポリシーとして、データは日本国内に留めることが明記されている場合、Amazon Q Business の利用は難しいですが、そうでない場合は「米国東部(バージニア北部)」「米国西部(オレゴン)」で利用してみるのはアリだと思います。

docs.aws.amazon.com

Badポイント③:応答速度が遅い

ChatGPTやGeminiと比較すると、Amazon Q Business の応答速度は若干遅いです。しかし、これは普段から応答速度が早い「Gemini 2.5 Flash」などに慣れているから感じることであって、初めて業務で生成AIを利用するユーザーにとっては、あまり気にならないかもしれません。(リージョン間のレイテンシーが影響していることもあるかもしれません)

ただし、「Company knowledge」「ハルシネーション軽減機能」「Advanded search」を利用すると、応答までにいくつかの処理を挟むためレイテンシーは確実に落ちます。

Badポイント④:Company knowledge では、大規模データは扱えない

Amazon Q Business に同期させるデータ量が以下の場合で考えてみます。

  • ファイル数:100万ファイル
  • データ総容量:20TB
  • 1ファイルあたりから抽出されるテキスト量は、データ容量の10%と仮定

Amazon Q Businessでは、データソースとして作成可能なインデックス容量は「ユニット」で測定され、各ユニットは「20,000ドキュメント または 200MBの抽出テキスト」のいずれか先に到達した方で計算されます。

<必要なユニット数の計算>

  • ファイル数ベース:100万ファイル ÷ 20,000ファイル/ユニット = 50ユニット
  • データ容量ベース:20TB = 20,000GB = 20,000,000MB
    • 20,000,000MB × 0.1(10%) ÷ 200MB/ユニット = 10,000ユニット

この場合、100,000ユニットが必要となります(より大きい方の値が適用されるため)。

<インデックスタイプの選択>

Amazon Q Businessには2つのインデックスタイプがあります:

  • Starterインデックス: 最大5ユニットまで(概念実証や開発用)
  • Enterpriseインデックス: 最大50ユニットまで(本番環境用)

今回の場合、必要なユニット(10,000)は、Enterpriseインデックスの上限(50)を大幅に超過しており、超過分はインデックスを作成することはできません。

上記より、Amazon Q Business を利用する場合は以下のことが言えます。

  • 向いているケース
    • 日常業務で参照すべきデータがある程度、固定化されている(製品マニュアル、手順書、社内規約など)
  • 不向きなケース
    • 参照データ(ファイル数、データ量)が増加し続ける傾向にある(SaaSのストレージサービス、データの棚卸しをあまりしないストレージ)

実務導入で気をつけるポイント(運用面)

①アクセス制御と機密情報の取り扱い

社内ドキュメントを取り扱う際は、アクセス権を厳格に管理します。また、ユーザーからの入力によって、個人データや機密情報が応答されないように制御することが不可欠です。

Amazon Q Business では、Guardrailsを利用して特定トピックに対する応答を制限することができます。

Guardrailsで人事情報に対する応答を制限した場合の応答例

②利用ガイドラインの整備と教育

非エンジニアでも使えるとはいえ、どんな問い方が良い回答を引き出すか(プロンプトエンジニアリング)、モデルの限界(ハルシネーション)など、AI利用についての基本的な教育や啓蒙活動は必要です。

社内FAQやハンドブックを用意して、それらをAmazon Q Business に同期させ、Company knowledge からユーザーが確認できるようにすることも効果的です。

③導入フェーズの段階的展開

導入時の混乱を避けるために、まずは一部部署やパイロットチームでスモールスタートし、導入にあたっての問題点を洗い出したり、運用方針を決めるたりします。導入時にトラブルが続くと、ユーザーが生成AI利用に消極的になってしまう可能性があります。

生成AI導入における3つの段階的レベル

今回の検証結果を踏まえ、企業が生成AIを導入するフェーズをざっくりと「エントリー」「ミドル」「プロ」の3段階で整理してみました。

エントリーレベル:Amazon Q Business

  • 対象:一般社員、非エンジニア
  • 主な用途:FAQ、社内文章検索、AIチャット、定型文作成、ドキュメント要約
  • 特徴:導入が簡単、運用負荷が小さい、即効性が高い

ミドルレベル:Amazon Bedrock

  • 対象:開発チーム、プロダクト組み込みを目指す部門
  • 主な用途:アプリケーションへの組み込み、カスタムプロンプト、多様なモデル選択、エージェント利用
  • 特徴:柔軟性と拡張性が高く、業務アプリへの統合に向く

プロレベル:Amazon SageMaker AI + Amazon Bedrock

  • 対象:AIをコアに据える組織、研究開発チーム
  • 主な用途:基盤モデルの事前トレーニング、ファインチューニング、継続的トレーニング、大規模デプロイ
  • 特徴:全てをコントロールできるが、専門人材と運用コストが必要

まとめ:エントリーレベルであれば、Amazon Q Business でも十分活用できる

本ブログを書きながら感じたのは、「生成AIを業務に取り入れる敷居を下げること」が重要だという点です。高度な技術を詰め込むよりも、日常業務に直結する機能を安定的に提供するほうが、ROIは高くなります。

そういう意味では、Amazon Q Business はまさにピッタリだと思います。特に Amazon Q Apps を活用すれば、日々の定型作業や情報検索が格段に楽になります。 そして、より高度なニーズが出てきたり、AIを利用する対象が変わってきたら、Amazon Bedrock や Amazon SageMaker AI に移行すれば良いと思います。

山﨑 翔平 (Shohei Yamasaki) 記事一覧はコチラ

カスタマーサクセス部所属。2019年12月にインフラ未経験で入社し、AWSエンジニアとしてのキャリアを始める。2023 Japan AWS Ambassadors/2023-2024 Japan AWS Top Engineers