
セキュリティサービス部 佐竹です。
Amazon の新しい基盤モデルファミリー「Amazon Nova 2」および関連サービスについて、AWS re:Invent 2025 で発表された情報を元にまとめを記載します。
- はじめに
- Nova に関するアップデート一覧
- 新機能と強化された機能の詳細
- 関連アップデート:モデルカスタマイズ機能の強化
- 情報ソース
- Amazon introduces new frontier Nova models, a pioneering Nova Forge service for organizations to build their own models, and Nova Act for building agents
- What's new in Amazon Nova 2 および User Guide
- Amazon Bedrockは、開発者がより賢く、より正確なAIモデルを構築する方法を簡素化する強化学習によるファインチューニングを追加しました
- Amazon SageMaker AI の新しいサーバーレスカスタマイズにより、モデルのファインチューニングが加速します
- Amazon Nova Pricing
- まとめ
はじめに
Amazon Nova 2 は、業界最高レベルの知能、速度、コスト効率のバランスを実現した AWS の次世代基盤モデルファミリーです。AWS re:Invent 2024 で発表され、re:Invent 2025 では第2世代となりました。
テキスト、画像、動画、音声を含むマルチモーダルな処理能力に加え、複雑なタスクを段階的に解く「拡張思考」を備えており、日常的な業務自動化から高度な AI エージェントの構築まで幅広く対応します。
Nova に関するアップデート一覧
AWS re:Invent 2025 では数多くのアップデートがあり、Amazon Nova 2 モデルファミリーとして、テキスト、画像、動画、音声を含むマルチモーダルな処理能力を持つ多数のモデルが登場しました。加えて、独自のモデル構築を支援する Nova Forge や、エージェント機能を強化する Nova Act などの関連サービスも発表されています。
主な特徴を以下の表にまとめました。
| カテゴリ | サービス名 | 主な特徴・強み | 想定ユースケース |
|---|---|---|---|
| モデル | Nova 2 Lite | 高速かつ低コスト。日常的なワークロード向け。推論、マルチモーダル処理に対応 | カスタマーサービスチャットボット、文書処理、ビジネス自動化 |
| モデル | Nova 2 Pro (プレビュー) | Amazonで最も知的な推論モデル。高度な問題解決能力 | 複雑なエージェントコーディング、長期的計画、高度な問題解決 |
| モデル | Nova 2 Sonic | 音声 to 音声のリアルタイム対話。低遅延。7言語対応 | AI 音声アシスタント、カスタマーサービス、インタラクティブな音声体験 |
| モデル | Nova 2 Omni (プレビュー) | 入出力ともにマルチモーダル(入力:テキスト・画像・動画・音声 / 出力:テキスト・画像) | クリエイティブ制作、マーケティングキャンペーン生成 |
| 開発環境 | Nova Forge | 自社データをモデル学習過程に統合 (オープントレーニング) | 組織独自の知識を組み込んだ最適化モデル「Novellas*1」の構築 |
| エージェント | Nova Act | ブラウザ操作の信頼性 90%。UI ベースのワークフロー自動化 | CRM データ更新、ウェブサイト機能テスト、保険請求処理 |
Nova 2 モデルファミリーのポイント
Nova 2 モデルファミリーは、推論能力、マルチモーダル処理、コード生成、エージェントタスクにおいて、業界をリードする価格性能比を提供します。
Nova 2 基盤モデル (Lite / Pro)
- Nova 2 Lite は、テキスト、画像、動画、文書を入力として処理し、テキストを生成します。日常的なワークロード向けに、速度とコスト、知能のバランスが調整されています。
- Nova 2 Pro (プレビュー) は、Amazonで最も知的な推論モデルです。テキスト、画像、動画、音声を入力として処理できます。エージェント的なコーディングや長期的計画など、最高の精度が求められる複雑なタスクに最適です。
- 両モデルとも 拡張思考 に対応しており、応答前に段階的な「思考」を行うことで、複雑なマルチステップタスクの精度を向上させます。Nova 2 Liteでは思考の強度(推論エフォート)を「低・中・高」の3段階で制御可能です。
- ウェブグラウンディング と コードインタープリター を内蔵しており、最新情報の検索や Python コードの実行が可能です。
Nova 2 Sonic (音声)
- リアルタイムで人間のような会話 AI を実現する 音声 to 音声モデル です。テキストと音声の理解・生成を統合しています。
- ストリーミング音声理解、自然言語処理、音声生成機能が統合されており、7言語(英語、フランス語、ドイツ語、イタリア語、スペイン語、ポルトガル語、ヒンディー語)に対応しています。
- 「Polyglot voices」機能により、同じ声質のまま異なる言語をネイティブのような表現力で話すことが可能です。
- ユーザーが話している間に割り込む「バージイン*2」や、自然な会話のリズムを作る「ターンテーキング*3」制御をサポートしています。
Nova 2 Omni (マルチモーダル/プレビュー)
- テキスト、画像、動画、音声を入力とし、テキストと画像の両方 を生成できる、単一の統合モデルです。
- 複数の専門モデルを組み合わせるコストと複雑さを排除します。例えば、製品カタログや動画ライブラリを分析し、見出しやコピー、ビジュアルを含むマーケティングキャンペーンを即座に生成できます。
新しいサービス:Nova Forge と Nova Act
モデル群に加え、モデルのカスタマイズとエージェント構築を加速する新サービスも発表されました。
Nova Forge(独自のフロンティアモデル構築)
- 組織が独自の 「Novellas (ノベラス)」 と呼ばれる最適化された Nova の派生モデルを構築するためのサービスです。
- 「オープントレーニング」 という独自のアプローチを採用しており、事前学習、中間学習、後学習のあらゆる段階で、自社のデータと Amazon Nova が厳選したデータを組み合わせて学習させることができます。
- 独自の環境(Gym*4)での強化学習や、より小さく高速なモデルを作成する「蒸留」もサポートしています。
Nova Act(高信頼性 AI エージェント)
- ウェブブラウザベースの UI 操作ワークフロー向けに、90%の信頼性 を実現する AI エージェントを構築・デプロイするための AWS サービスです。
- カスタムの Nova 2 Lite モデルによって動作し、数千のタスクと数百のシミュレーション環境での強化学習を通じて訓練されています。
- 開発者は自然言語プロンプトでエージェントのプロトタイプを作成し、VS Code などの IDE で調整して AWS にデプロイできます。
新機能と強化された機能の詳細
Nova 2 モデルは、エージェントワークフローや複雑なデータ処理を効率化するための様々な新機能を組み込んでいます。
拡張思考と推論:
- Nova 2 Lite がサポートする機能で、モデルが複雑な問題に対してより多くの推論時間を使うことを可能にします。これにより、エージェントワークフロー、高度な数学、計画策定、コード生成などの多段階の推論タスクの精度が向上します。
- 推論の過程(思考プロセス)は出力では
[REDACTED]としてマスクされますが、回答の質向上に寄与します。
ビルトインツール:
- 外部連携なしでモデルの機能を拡張するツールが Nova 2 に内蔵されました。
- ウェブグラウンディング: Web からリアルタイムの情報にアクセスし、最新の事実に基づいた応答を提供し、ハルシネーション(幻覚)を低減します。
- コードインタープリター: サンドボックス環境で Python コードを実行し、計算やデータ処理を行うことができます。
- 外部連携なしでモデルの機能を拡張するツールが Nova 2 に内蔵されました。
文書理解と動画理解の強化:
- Nova 2 Lite は、文書処理能力が向上 し、複雑なレイアウト、表、グラフ、複数ページの文書(PDF、スプレッドシートなど)からの情報抽出精度が高まりました。
- 動画分析能力も強化 され、視覚的知覚、時間的理解、アクション認識が向上しています。
関連アップデート:モデルカスタマイズ機能の強化
Nova 2 モデルのリリースに合わせて、Amazon Bedrock および Amazon SageMaker AI においてもモデルのカスタマイズ機能が強化されています。
- Amazon Bedrock での強化学習ファインチューニング:
- 深い機械学習の専門知識や大量のラベル付きデータを必要とせずに、モデルの精度を向上させる機能です。
- 少量のプロンプトセットを用いた学習で、ベースモデルと比較して平均66%の精度向上が期待できます。
- ローンチ時点では Amazon Nova 2 Lite がサポート対象となっており、今後は他のモデルへも拡大予定です。
- Amazon SageMaker AI のサーバーレスモデルカスタマイズ:
- インフラストラクチャの管理不要で、Amazon Nova を含む人気モデルに対して、教師ありファインチューニング (SFT) や強化学習などの最新技術を適用できます。
- データ準備から評価、デプロイメントまでのワークフローを簡素化し、開発を加速します。
情報ソース
本ブログは、以下の公開情報を元に記述し、まとめを行いました。
Amazon introduces new frontier Nova models, a pioneering Nova Forge service for organizations to build their own models, and Nova Act for building agents
What's new in Amazon Nova 2 および User Guide
Amazon Bedrockは、開発者がより賢く、より正確なAIモデルを構築する方法を簡素化する強化学習によるファインチューニングを追加しました
Amazon SageMaker AI の新しいサーバーレスカスタマイズにより、モデルのファインチューニングが加速します
Amazon Nova Pricing
最後に重要な、利用料金についてです。
まず、利用料については以下の料金ページをご利用前に必ずご覧ください。
特に、新サービスである Nova Forge と Nova Act は、従来の従量課金モデルとは異なる料金体系や、利用方法によっては非常に高額となる設定が含まれているため、導入前の十分な試算を強く推奨します。以下に、東京リージョン(一部グローバル価格)における目安をまとめました。
Nova Forge と Nova Act の料金目安等
1. Nova Forge

上画像は AWS のマネジメントコンソールからのみ確認ができるものとなっています。
【重要】 Nova Forge の利用には、非常に高額な年間サブスクリプション料金が発生します。
- 年間サブスクリプション: $100,000 / 年 (1 Payer アカウントあたり)
- 日本円換算で 約 1,500万円 (1ドル=150円換算の場合) 近い固定費がかかる計算となります。
- これに加え、モデルのトレーニングにかかるコンピュートリソース等の費用が別途発生する可能性があります。
- 「自社専用の特化型モデル (Novellas)」を構築するという性質上、予算規模の大きいエンタープライズ利用が想定されている点にご注意ください。
2. Nova Act
【重要】 エージェントの稼働時間に応じた従量課金ですが、単価が高めに設定されています。常時稼働させる場合は特に注意が必要です。
- エージェント実行料金: $4.75 / エージェント時間
- 例えば、1つのエージェントを 24時間稼働させた場合、1日で $114 (約 1.7万円) かかります。
- 1ヶ月 (30日) 常時稼働させた場合、$3,420 (約 51万円) となります。
- 複数のエージェントを並行稼働させる場合は、その数だけ料金が加算されます。
- 補足:
Human-in-the-Loop(人間による確認待ち)の時間は課金対象外となります。
3. Nova 2 基盤モデル
参考までに基盤モデルについても記載します。
以下は、東京リージョンから利用可能な Global Cross-region Inference(グローバル推論)の価格設定です。データレジデンシー要件等で東京リージョン内(In-region)で完結させる場合は、下表よりも10%ほど割高になる点にご注意ください。
- Nova 2 Sonic は音声だけでなく、テキストのやり取り(履歴やツール利用)にも別途安価なレートが適用されます。
- Nova 2 Omni は入力データ種別(音声のみ高い)や、画像出力の単価が異なります。
| モデル | 1,000 input tokens | 1,000 output tokens |
|---|---|---|
| Nova 2 Lite | $0.00036 | $0.00301 |
| Nova 2 Pro (プレビュー) | $0.00151 | $0.01250 |
| Nova 2 Sonic | 音声: $0.00363 テキスト: $0.000396 |
音声: $0.01452 テキスト: $0.003311 |
| Nova 2 Omni (プレビュー) | テキスト, 画像, 動画: $0.00040 音声: $0.00120 |
テキスト: $0.00300 画像: $0.04800 |
まとめ
Amazon Nova 2 の発表により、AWS における生成 AI のポートフォリオはさらに拡大しました。
特に注目すべきは、単なるモデルの性能向上にとどまらず、「Nova Forge」による独自モデル構築の民主化 と、「Nova Act」による実用的なエージェント運用の実現となります。ただし、エンタープライズ向けのプライシングであるため、費用対効果(ROI)の観点から注意が必要です。
Nova 2 モデル群は、推論能力とマルチモーダル処理を核としており、日常業務から高度な専門タスク、クリエイティブ生成までをカバーします。さらに、拡張思考や ウェブグラウンディングといった機能が組み込まれたことで、開発者は複雑なインテグレーションなしに、より「賢い」AI アプリケーションを構築できるようになりました。
これらは、企業が自社のデータとノウハウを活かし、真の価値ある独自の AI ソリューションを大規模開するための強力な基盤となるでしょう。
以上でまとめを終わります。
では、またお会いしましょう。
*1:「Novellas(ノベラス)」は、Nova Forge を使って企業の独自データで学習させた、その企業専用の『特化型モデル(派生モデル)』を指す AWS の造語です。
*2:バージイン機能は、システムの発話中にユーザーが割り込んで話しかけた場合でも、ユーザーの発話内容を認識することができる機能
*3:話者の交代
*4:「AI エージェントが試行錯誤して学習するための、標準化されたシミュレーション環境」 のこと
佐竹 陽一 (Yoichi Satake) エンジニアブログの記事一覧はコチラ
セキュリティサービス部所属。AWS資格全冠。2010年1月からAWSを業務利用してきています。主な表彰歴 2021-2022 AWS Ambassadors/2020-2025 Japan AWS Top Engineers/2020-2025 All Certifications Engineers。AWSのコスト削減やマルチアカウント管理と運用を得意としています。