GPT-5.6 vs Claude Fable 5 どこが強くてどこが弱い?ベンチマーク比較

記事タイトルとURLをコピーする

はじめに

サーバーワークスの池田です。

2026 年 7 月 9 日、OpenAI が GPT-5.6 ファミリー(Sol・Terra・Luna)の一般提供を開始しました。6 月 26 日の限定プレビュー(米政府の要請で当初は信頼パートナー約 20 社に限定)から約 2 週間での正式リリースです。

本記事では、OpenAI 公式発表ページに掲載された比較表を一次ソースとして、GPT-5.6 と Anthropic の Claude(Fable 5 / Mythos 5 / Opus 4.8)を直接比較できる 14 個のベンチマークを整理し、用途別の使い分けの軸を提示します。

この記事で分かること

  • GPT-5.6 ファミリー(Sol・Terra・Luna)の構成・API 価格・新機能の概要
  • コーディング・エージェント業務・コンピュータ操作・数学などの領域別で、GPT-5.6 と Claude のどちらが優位なのか
  • OpenAI が今回もっとも強調している「効率(時間・トークン・コスト)」の中身
  • ベンチマーク数値を読むときの注意点(自己申告値である点・METR の指摘・数値の不一致)
  • 先行アクセス開発者たちの使い比べ評価と、用途別の推奨モデル

GPT-5.6 ファミリーの概要

GPT-5.6 は単一モデルではなく、3 段階の能力ティアからなるファミリーです。

モデル 位置づけ モデルID 入力/出力(1Mトークン)
GPT-5.6 Sol フラッグシップ。長時間エージェント作業向け gpt-5.6-sol $5.00 / $30.00
GPT-5.6 Terra バランス型。GPT-5.5 相当の性能を約半額で gpt-5.6-terra $2.50 / $15.00
GPT-5.6 Luna 最速・最安。大量処理向け gpt-5.6-luna $1.00 / $6.00

出典: OpenAI "GPT-5.6" 発表ページ/OpenAI API Pricing

機能面の主な新要素は次の 3 点です。

  • 推論努力「max」: 従来の xhigh の上位に位置する設定。GPT-5.6 を使える全ユーザーが設定で有効化できます。
  • 「ultra」モード: デフォルト 4 エージェント並列のサブエージェント協調で、要求の重いタスクの完了を高速化します。Codex では Plus 以上のプランで利用可能です。
  • 明示的プロンプトキャッシュ: キャッシュブレークポイントの明示指定と最低 30 分のキャッシュ寿命保証が入りました。書き込みは非キャッシュ入力単価の 1.25 倍、読み取りは 90% 割引です。Claude のプロンプトキャッシュに近い設計と言えます。

全体スコア比較

先に結論を示します。今回の比較の最大の特徴は、勝敗がベンチマークによってきれいに分裂していることです。OpenAI 自身が公開した比較表の中でも、SWE-Bench Pro や総合知能指標では Claude が上回っています。

カテゴリ ベンチマーク GPT-5.6 Sol Claude 側最高値 優位
コーディング SWE-Bench Pro 64.6% 80.3%(Mythos 5)/ 80%(Fable 5) Claude
コーディング DeepSWE v1.1 72.7% 69.7%(Fable 5) GPT
コーディング AA Coding Agent Index v1.1 80 77.2(Fable 5) GPT
ターミナル Terminal-Bench 2.1 88.8%(ultra 91.9%) 88%(Mythos 5) GPT
エージェント業務 Agents' Last Exam 52.7% 40.5%(Fable 5) GPT
実務業務 GDPval-AA v2 1,747.8 Elo 1,759.6 Elo(Fable 5) Claude
総合知能 AA Intelligence Index v4.1 58.9 59.9(Fable 5) Claude
コンピュータ操作 OSWorld 2.0 62.6% 54.8%(Opus 4.8) GPT
ブラウジング BrowseComp 90.4%(ultra 92.2%) 88%(Mythos 5) GPT
学術知識 GPQA Diamond 94.6% 94.1%(Mythos 5) 同等
数学 FrontierMath Tier 4 (v2) 83% 87.8%(Fable 5) Claude
ツール連携 Toolathlon 58% 61.7%(Fable 5 / Mythos 5) Claude
長文脈 GraphWalks BFS 1M f1 77.1% 79.4%(Mythos 5) Claude
医療 HealthBench Professional 60.5% 60.9%(Fable 5) 同等

出典: OpenAI "GPT-5.6" 発表ページ掲載の比較表(2026 年 7 月 10 日閲覧)。すべて OpenAI 側の測定値です。

GPT-5.6 Sol が優位なのは エージェント業務・ターミナル・コンピュータ操作・ブラウジング、Claude が優位なのは SWE-Bench Pro・実務業務・総合知能・数学・ツール連携・長文脈です。14 項目中、GPT 優位 6・Claude 優位 6・同等 2 という構図でした。

ベンチマーク比較の前提と注意点

本記事の数値は、OpenAI の GPT-5.6 一般提供発表ページに掲載された比較表を 2026 年 7 月 10 日に確認したものです。Claude 側のスコアも含めてすべて OpenAI 側の測定・掲載値であり、Anthropic による追試や反論は本記事執筆時点で公表されていません。

読み方の注意点が 3 つあります。

第一に、第三者評価機関 METR が「評価のゲーミング(eval gaming)」を報告しています。METR は OpenAI から事前アクセスを受けて GPT-5.6 Sol を評価し、ソフトウェアエンジニアリング系の評価で隠しテストデータの抽出や指標だけを満たすショートカットなど、不正行為の頻度が過去のモデルより高かったと指摘しました。不正の扱い方によってタスク完了時間の推定値が大きく変動するため、コーディング系の高スコアは幅を持って見る必要があります。

第二に、数値の細部に不一致があります。Agents' Last Exam は OpenAI の本文では「53.6 で Fable 5 比 +13.1 ポイント」と記述される一方、同じページの表では 52.7% と記載されています。本記事の表は比較表側の値を採用しました。

第三に、独立リーダーボードの Vals AI の SWE-bench では Sol(max reasoning)が 96.2%、Claude Fable 5 が 95.0% と僅差です。ただしこちらも METR の指摘を踏まえると、スコア差だけで優劣を断定するのは避けるべきです。

1. コーディング能力

SWE-Bench Pro は Claude が約 16 ポイントの大差

実在 OSS リポジトリの Pull Request を再現できるかを評価する SWE-Bench Pro では、Claude 側が大きくリードしています。

モデル スコア
Claude Mythos 5 80.3%
Claude Fable 5 80%
Claude Opus 4.8 69.2%
GPT-5.6 Sol 64.6%
GPT-5.6 Terra 63.4%
GPT-5.5 59.4%

出典: OpenAI "GPT-5.6" 発表ページ

注目すべきは、この Claude 優位の数値を OpenAI 自身が自社の比較表に掲載している点です。マルチファイル修正を含む複雑な実装タスクでは、引き続き Claude Fable 5 / Mythos 5 が最有力と言えます。

それ以外のコーディング指標は GPT-5.6 が上回る

一方、DeepSWE v1.1(実コードベースでの長時間エンジニアリング)では Sol 72.7% vs Fable 5 69.7%、Artificial Analysis Coding Agent Index v1.1 では Sol 80 vs Fable 5 77.2 と、GPT-5.6 側が上回ります。

Terminal-Bench 2.1(複雑なコマンドラインワークフロー)では Sol が 88.8%、ultra モードで 91.9% を記録し、SOTA を主張しています。Claude 側の最高は Mythos 5 の 88% で、Fable 5 は 83.1% でした。

コーディング領域の総括としては、「実プロジェクトの複雑な PR 作成は Claude、ターミナル操作を含むエージェンティックな開発作業は GPT-5.6」という分かれ方です。

2. エージェント業務と知識労働

Agents' Last Exam は GPT-5.6 が大幅リード

55 分野の長時間プロフェッショナルワークフローを評価する Agents' Last Exam では、Sol 52.7% に対して Fable 5 は 40.5% と、GPT-5.6 が 12 ポイント以上の差をつけました。Terra(50.4%)や Luna(50.3%)ですら Fable 5 を上回っています。

OpenAI は効率面も強調しており、medium reasoning 設定でも Fable 5 を上回りつつ推定コストは約 4 分の 1、Terra と Luna に至っては約 16 分の 1 のコストで Fable 5 超えと主張しています。

実務ドキュメントと総合知能は Fable 5 が上

一方、実務的な知識労働の成果物を Elo 形式で評価する GDPval-AA v2 では Fable 5 が 1,759.6 で Sol の 1,747.8 を上回りました。Artificial Analysis Intelligence Index v4.1 でも Fable 5 の 59.9 に対して Sol は 58.9 と、わずかに Fable 5 が上です。

OpenAI 自身も「Fable 5 の 1 ポイント以内に、61% 短い時間・約半分のコストで到達」という表現を使っており、絶対性能では並び、効率で勝つという位置づけを取っています。

3. コンピュータ操作とブラウジング

OSWorld 2.0(GUI 操作の実タスク遂行)では Sol が 62.6% で、Opus 4.8 の 54.8% を上回りました。OpenAI は「85% 少ない出力トークンで Opus 4.8 超え」と効率面も併記しています。なお、この表に Fable 5 のスコアは掲載されていません。

BrowseComp(エージェンティックな Web ブラウジング)では Sol 90.4%、ultra 92.2% で SOTA を主張しています。Claude 側は Mythos 5 の 88% が最高でした。GUI 自動化・Web リサーチ系エージェントでは GPT-5.6 が優位です。

4. 学術知識と数学

GPQA Diamond(博士レベルの科学問題)は Sol 94.6% vs Mythos 5 94.1% vs Fable 5 92.6% とほぼ横並びです。

差が出たのは数学です。FrontierMath Tier 4(最難関の研究レベル数学)では Fable 5 が 87.8% で Sol の 83% を上回りました。Tier 1–3 では Sol 89% vs Fable 5 87% と逆転するため、最難問クラスに限って Fable 5 の深い推論が効いている形です。

5. ツール連携と長文脈

Toolathlon(多数の実ツールを組み合わせるタスク遂行)では Fable 5 / Mythos 5 が 61.7% で並び、Sol の 58% を上回ります。Opus 4.8(59.9%)にも Sol は届いていません。MCP サーバーなど多ツール連携の運用では引き続き Claude 側に分があります。

長文脈も同様で、GraphWalks BFS 1M(100 万トークン文脈でのグラフ推論)は Mythos 5 79.4% vs Sol 77.1%、256K でも Mythos 5 91.1% vs Sol 90.7% と Claude がわずかに上です。GPT-5.5 世代で大差をつけられていた Claude の長文脈が、世代を追って追い付いてきた領域とも言えます。

6. 効率とコスト GPT-5.6 の本当の売り

今回の OpenAI の発表を通読すると、絶対性能の主張よりも「同等以上の結果を、より少ないトークン・時間・コストで」という効率の主張が軸になっています。公式発表に登場する効率系の主張を整理します。

領域 OpenAI の主張
AA Coding Agent Index Fable 5 比で出力トークン半分以下・時間半分以下・コスト約 3 分の 1 減
AA Intelligence Index Fable 5 の 1 ポイント以内に 61% 短い時間・約半分のコストで到達
Agents' Last Exam medium reasoning でも Fable 5 超え、コストは約 4 分の 1
同上(下位モデル) Terra / Luna は約 16 分の 1 のコストで Fable 5 超え
OSWorld 2.0 85% 少ない出力トークンで Opus 4.8 超え

出典: OpenAI "GPT-5.6" 発表ページ(いずれも OpenAI の推定値)

API 価格を並べると、価格設定の狙いがより明確になります。

モデル モデルID 入力/出力(1Mトークン)
Claude Fable 5 claude-fable-5 $10.00 / $50.00
Claude Opus 4.8 claude-opus-4-8 $5.00 / $25.00
GPT-5.6 Sol gpt-5.6-sol $5.00 / $30.00
GPT-5.6 Terra gpt-5.6-terra $2.50 / $15.00
GPT-5.6 Luna gpt-5.6-luna $1.00 / $6.00

出典: OpenAI API Pricing/Anthropic 公式ドキュメント Pricing(2026 年 7 月 10 日時点)

Sol の単価は Fable 5 の半分程度(入力 1/2・出力 3/5)です。さらにトークン効率の差が OpenAI の主張どおりであれば、タスクあたりの実コスト差はもっと開くことになります。コスト構造を武器にした競争を仕掛けている、と読むのが自然です。

7. 実際に使い比べた開発者の評価

数値以外の観点として、先行アクセス期間から両モデルを使い比べてきた開発者コミュニティの評価を整理します(傾向としての紹介であり、個別の検証結果ではありません)。

  • 性格がはっきり違うという評価が支配的です。Fable 5 は洞察力が高く本質を見抜く「思慮深い設計者」タイプ、GPT-5.6 Sol は問題に食らいついて最後まで離さない「実行者」タイプ、という対比が広く共有されています。
  • 文章力・UI/UX の設計センス・「そもそも何を作るべきか」の判断は Fable 5 が上、自走力・作業スピード・タスク完遂の粘り強さは Sol が上という整理が典型的です。
  • 生命科学系の話題に対して Fable 5 は安全ガードレールが強く働くのに対し、GPT-5.6 はブロックされにくいという報告があります。これは OpenAI の発表ページ自体が「GeneBench Pro に Fable 5 を含めないのは、高度な生物学の質問への回答を拒否するため」と脚注で明記していることとも符合します。
  • 二者択一ではなく、GPT-5.6 を実行役(Executor)、Fable 5 を助言役(Advisor)として組み合わせる併用パターンを試す動きも出てきています。

用途別:こんな仕事ならどっち?

用途 推奨モデル 根拠ベンチマーク
OSS リポジトリへの複雑な PR 作成・マルチファイル修正 Claude Fable 5 / Mythos 5 SWE-Bench Pro
長時間の自律エージェント業務(調査・分析・定型業務) GPT-5.6 Sol Agents' Last Exam
ターミナル中心の開発自動化 GPT-5.6 Sol(ultra) Terminal-Bench 2.1
GUI 自動化(RPA 的用途) GPT-5.6 Sol OSWorld 2.0
Web リサーチエージェント GPT-5.6 Sol BrowseComp
実務ドキュメント・スライド・スプレッドシート作成 Claude Fable 5 GDPval-AA v2
研究レベルの数学・定理証明 Claude Fable 5 FrontierMath Tier 4
MCP サーバーなど多ツール連携の運用 Claude Fable 5 Toolathlon
巨大リポジトリ・長大ドキュメントの読解 Claude Mythos 5 / Fable 5 GraphWalks BFS 1M
コスト重視の大量処理 GPT-5.6 Luna / Terra API 価格・効率指標

ベンチマーク比較の限界

本記事の比較には、以下の限界があります。

  • すべて OpenAI 側の測定値です。Anthropic のシステムカードとは評価ハーネスや採点方式が異なる可能性があり、OpenAI 自身も HealthBench Professional について「Anthropic のシステムカードの結果とは比較できない」と脚注を付けています。
  • METR の eval gaming 指摘により、特にコーディング系スコアには上振れの可能性があります。
  • 日本語性能は今回のベンチマークにほぼ含まれていません。日本語での文章生成・読解は別途検証が必要です。
  • GPT-5.6 は一般提供開始の翌日という時点での比較であり、実運用での評価はまだ固まっていません。最終判断は自社タスクでの A/B 検証がもっとも確実です。

まとめ

GPT-5.6 と Claude Fable 5 の比較は、どちらかの全面勝利ではなく、領域別の分業がはっきりした結果になりました。

  • GPT-5.6 Sol は、長時間エージェント業務・ターミナル操作・GUI 自動化・Web ブラウジングで優位。そして何より同等の結果を半分〜数分の 1 のコストで出す効率が最大の武器です。
  • Claude Fable 5 / Mythos 5 は、SWE-Bench Pro が示す複雑な実装タスク・実務ドキュメント作成・最難関の数学・多ツール連携・長文脈で優位。総合知能指標でも首位を守っています。

Claude Code を軸に使っているユーザーの観点では、実装の本丸は引き続き Fable 5 / Opus 4.8 に任せつつ、大量処理や長時間の調査系エージェントには価格の安い GPT-5.6 を併用する構成が現実解になりそうです。開発者コミュニティで試され始めている「GPT-5.6 が実行し、Fable 5 が助言する」ハイブリッド構成も、両者の性格差を踏まえると理にかなった方向と言えます。

ベンチマークはあくまで OpenAI 発表値ベースの比較です。実運用の評価が出揃うこれからの数週間、両モデルの使われ方がどう変わっていくか注目していきます。

池田 智耶(執筆記事の一覧)

ディベロップメントサービス2課

生成AI関連の記事を中心に執筆!