AWS Summit レポート: VMware ワークロードのクラウド移行とモダナイゼーション
サーバーワークス・スマートオペレーションズ クラウドセキュリティ部クラウドセキュリティ課の野上です。
先日開催された AWS Summit にて、VMware ワークロードの AWS 移行に関する二つのセッションを聴講しました。かつてインフラエンジニアとして VMware 環境に携わっていた私にとって、これらのセッションは、既存のオンプレミス環境とクラウドの融合、そして未来のモダナイゼーションの方向性を示す非常に興味深い内容でしたのでご紹介いたします。

VMware ワークロードを AWS に。既存環境を活かして迅速に移行できる新たな選択肢

このセッションで紹介されたのは、Amazon Elastic VMware Service (Amazon EVS) でした。長年 VMware 環境に携わってきた私にとって、これは非常に衝撃的でした。クラウド移行というと、OS ごとにマイグレーションをしたり、再構築が必要だったりと、多大な労力を伴うものだとばかり思っていましたからです。
セッションを受けた印象としては、Amazon EVS はまるで vSphere Client で見ている仮想環境を、AWS にそのまま取り込んで EC2 インスタンスのように管理できるようなサービスのように感じました。データセンターの閉鎖が迫る中での迅速な移行、ダウンタイムの最小化、古い OS のそのまま移行、さらには IP アドレスを変更しない移行といった、オンプレミス環境からクラウドへの移行で直面しがちな具体的な課題に対し、まさに最適なソリューションのように思います。

Amazon EVS の利用は、ほぼ丸ごとの移行が可能になるため、移行にかかる労力が大幅に削減されます。さらに、オンプレミスのインフラエンジニアが使い慣れた vMotion や vSphere HA といった機能が AWS 上でも利用できるのは、操作感が変わらないという点で大きなメリットです。既存のインフラエンジニアにとっては、これまでの知識や経験が無駄にならずに活かせるため、非常に嬉しいサービスではないでしょうか。
また、オンプレミスを引き続き選択する場合でも、BCP用にクラウド環境を用意するというのは選択肢として議論されるケースがあると思いますが、そういったケースにも Amazon EVS はかなり有用であるように感じました。
デメリットとして、現時点ではi4i.metal インスタンスのみでの提供とのことでしたので、移行に伴う制約は発生する可能性があります。 しかし、これから様々なインスタンスタイプが提供されていくことで、その適用範囲はさらに広がり、より多くの企業にとって魅力的な選択肢となるでしょう。
今後、Amazon EVS が様々な AWS の他サービスと密接に連携していくことで、オンプレミスのエンジニアがクラウドネイティブな環境のメリットをより見出しやすくなり、企業全体のシステム構築の幅が広がっていくことに大いに期待しています。
VMware ワークロードをクラウドネイティブへ: 生成 AI が実現する次世代のモダナイゼーション
先のセッションが VMware 環境の「そのまま移行」に焦点を当てていたのに対し、こちらのセッションで紹介されたのは AWS Transform for VMware でした。これは、VMware 環境から AWS のクラウドネイティブ環境への「マイグレーションとモダナイゼーション」を強力に推進するサービスです。
VMware 環境から AWS 環境への移行、特にアプリケーションのモダナイゼーションを伴う場合は、その煩雑さから多大な苦労が伴います。しかし、このセッションで強調されていたのは、AWS Transform for VMware が持つ AWS のマイグレーション専用 AI の能力です。この AI が、移行プロセスを大幅に支援してくれるという点が非常に印象的でした。

「目標駆動型、自律型、および長時間実行型エージェントによる迅速なマイグレーション」が謳い文句の通り、AI エージェントがあらゆる場面でマイグレーションの支援をしてくれるように感じました。 しかし、最も重要なのは、「すべてを AI 任せにするのではなく、マイグレーションを実行するエンジニアが決定権を持っており、あくまで AI はそれを補佐する形に徹している」という点です。これは、AI が単なるツールとして作業を自動化するだけでなく、人間の専門知識と協調しながら、より煩雑な課題を解決していくという、理想的な AI 活用モデルだと感じました。
AWS Transform for VMware は、インベントリディスカバリ、ウェーブプランニング、ネットワーク変換、マイグレーション の4段階で AI が支援することで、評価、計画、移行、モダナイゼーションというサイクルを高速で回し、1000 台以上の VM を効率的に移行することが可能とのことです。

オンプレミスエンジニアの視点で考えると、いざマイグレーションをしようとしたときに、VMware 時代で使用している機能(例えば、特定のストレージ機能やネットワーク構成)の代替として、どの AWS サービスが最適なのかを判断することは、非常に難易度の高い作業です。
これを AI が代替案として提示してくれるだけでも、意思決定の労力が大幅に削減され、非常に有意義なサービスであるように思いました。
さらに、AI がプランニングの叩き台を作り、それをエンジニアが確認・調整し、AI が VMware から AWS へのモダナイゼーションを実行していくという「対話形式」は、まさに AI と二人三脚でプロジェクトを進める感覚に近いでしょう。これは単に作業効率の向上だけでなく、オンプレミスエンジニアがクラウドネイティブなスキルや最新のアーキテクチャへの理解を深める上でも、非常に魅力的なスキルアップの機会を提供してくれると感じました。
まとめ
今回の AWS Summit のセッションは、Amazon Elastic VMware Service (Amazon EVS) と AWS Transform for VMware という二つのサービスを通じて、VMware と AWS という異なる領域が深く連携し、企業のクラウド移行とモダナイゼーションを劇的に加速させる可能性を示していました。Amazon EVS は既存の VMware 資産を活かした迅速な移行を、Transform は生成 AI の力を借りたクラウドネイティブへの転換をそれぞれ支援してくれるように感じました。特に生成 AI の活用は、従来のクラウド移行の障壁を大きく引き下げ、エンジニアがより戦略的な業務に集中できる未来を予感させます。オンプレミス環境で培った経験が、クラウドという新たな舞台でどのように活かされ、そして AI と共創していくのか、今後の進化に目が離せません。