マネージドサービス部 佐竹です。
本日のブログでは、AWS Well-Architected Framework サステナビリティの柱の1つ目のベストプラクティスである SUS01-BP01 Choose Region based on both business requirements and sustainability goals
がとても興味深いため、この項目について詳しく掘り下げていきます。
はじめに
本ブログは、以下のウォーターポジティブに関するブログ記事以来、私が記載する2本目のサステナビリティに関連するブログです。
今回は、AWS Well-Architected Framework の Sustainability Pillar について記載していきます。
サステナビリティの柱と BP01
本題となりますが、AWS Well-Architected Framework におけるサステナビリティの柱のその1つ目に、SUS01-BP01 Choose Region based on both business requirements and sustainability goals
があります。
日本語では「SUS01-BP01 ビジネス要件と持続可能性の目標の両方に基づいてリージョンを選択する」と翻訳されるものです。
このベストプラクティスがサステナビリティの柱の1つ目に突然現れるため、 Well-Architected Framework のレビューを行うと「一体、最初から何を言っているのか」という状況にもなり得るのですが(私はちょっとだけそうなりました)、この項目はようするに「最もサステナブルなリージョンを選べ」ということです。
そして疑問がわいてきます、「サステナブルなリージョンって何?」と。
AWS 公式ドキュメントに記載のある「アンチパターン」の例も合わせてみてみましょう。
- 自分の場所に基づいてワークロードのリージョンを選択する。
- すべてのワークロードリソースを 1 つの地理的場所に統合する。
これを読むに「一旦全ての利用可能なリージョン」を使用前提の俎上にあげて、グローバルでの分散を加味しながら AWS リージョンを選んでください、ということになりそうです。
そして以下が同メリットです。
- Amazon の再生可能エネルギープロジェクトや公開されている炭素強度の低いリージョンの近くにワークロードを配置することで、クラウドワークロードのカーボンフットプリントを削減できます。
なるほど。サステナブルなリージョンというのは、炭素強度が低い、つまり二酸化炭素排出量が少ないということ。
「よし、ではそのようなリージョンは一体どこだろうか?」となるでしょう。私はなりました。
どうすればこれを探し出せるでしょうか?
その情報を探し求めていると1つのブログを発見しました。以下の AWS 公式ブログにその答えが記載されています。
そして本ブログは、日本語にも翻訳されており、その題名は「持続可能な目標に基づくワークロードのためのリージョンの選び方」となっています。
このブログを読むことで SUS01-BP01
にうまく回答ができそうです。
本ブログではまずこのブログの要点を解説し、その後さらにもう一歩踏み込んだ話ができればと考えています。
"持続可能な目標に基づくワークロードのためのリージョンの選び方" の要約
さっそく先の AWS 公式ブログから SUS01-BP01 に役立ちそうな情報をピックアップしていきます。
最初に以下の2点が選定するためのステップとして紹介されています。
- ビジネス要件に基づき、候補となるリージョンを審査・選考(リスト化)します。
- リージョンは、Amazon の再生可能エネルギー・プロジェクト付近か、グリッドの炭素集約度(炭素強度)の低い場所を選択します。
これはどうやら AWS 公式ドキュメントに記載があった内容をまとめて記載したもののようです。とても分かり易くなりました。
次に重要なのは「GHG Protocol*1 に基づき、電力消費に伴う温室効果ガスの排出量を算出する際には、マーケット基準手法とロケーション基準手法の 2 種類の開示方法がある」という文面です。そして、それぞれの手法で最適なリージョンを選ぶ方法が記載されています。
マーケット基準手法に基づく AWS リージョン(複数可)の選択
「マーケット基準手法に基づく AWS リージョン(複数可)の選択」では、結論としては「Amazon Sustainability Website」に掲載されているリージョンを選択することになります。
Amazon Sustainability Website には 2021 年には、次の AWS リージョンの電力供給の 95% 以上が再生可能エネルギーになりました(和訳)
との記載と共にリージョンが複数表示されています。
- GovCloud (US-East) : us-gov-east-1
- US East (Ohio) : us-east-2
- US West (Oregon) : us-west-2
- GovCloud (US-West) : us-gov-west-1
- US West (Northern California) : us-west-1
- Canada (Central) : ca-central-1
- Europe (Ireland) : eu-west-1
- Europe (Frankfurt) : eu-central-1
- Europe (London) : eu-west-2
- Europe (Milan) : eu-south-1
- Europe (Paris) : eu-west-3
- Europe (Stockholm) : eu-north-1
※":" 以下の ID は筆者が付け加えたものです
残念ながら日本のリージョンは含まれていませんでしたが、これらのリージョンが選択肢として存在していることが判明しました。
ロケーション基準手法に基づく AWS リージョンの選択
次に、「ロケーション基準手法に基づく AWS リージョンの選択」では「Electricity Maps」を活用することになるのですが、これが非常に面白い情報になっています。
実際にサイトにアクセスし、ご自身の目で閲覧してみていただきたいのですが、「二酸化炭素量 (gCO₂eq/kWh)」によって色分けがされている世界地図が見えます。「二酸化炭素量 (gCO₂eq/kWh)」を報告していない国や地域の情報は掲載がされていないようですが、この地図で「緑色」になっている国は「炭素強度が低い」ということがわかるようになっています。
例えば東京を見てみます。ほとんどが「ガス」と「石炭」です。震災後は原子力発電所も停止されているので、全く利用されてない状況です。
「二酸化炭素排出」に表示を切り替えてみると、「石炭」が55.86%と突出していることがわかります。というわけで、東京リージョンはまだまだ炭素強度の高いリージョンであり、サステナビリティの観点からは選択が難しいようです。
- 補足1:サステナビリティの観点では上記のように記載はしましたが、コスト最適化の柱にあるように、専用線接続やエンドユーザのレイテンシから考えると、日本のエンドユーザからあえて遠い距離にリソースを配置してユーザビリティを犠牲にする必要はありませんので、近距離のリージョンを選択することは問題のない選択です
- 補足2: COST07-BP02 コストに基づいてリージョンを選択する に記載のある「必要なデータ転送を分析する: リージョンを選択する際は、データ転送コストを考慮します。データは顧客に近く、またリソースに近いところに置いてください。」がそれにあたります
少し補足を挟みましたが、グローバル展開が可能なサービスで、かつある程度どのリージョンでも構わないような場合はこれらの情報を加味して海外のリージョンを選択することが可能でしょう。
AWS のブログでは最終的にサステナビリティの観点において「ストックホルムリージョン」が選択されています。
一旦の結論
経緯を全て省いて結論だけを記載すると「SUS01-BP01 ビジネス要件と持続可能性の目標の両方に基づいてリージョンを選択する」への直接的な回答は「ストックホルムリージョンを選ぶと良い」というのが1つの結論になりそうです。
他には「欧州 (パリ) リージョン」も2つの基準手法どちらもクリアしているように思われますため、同様に選択肢に入りそうです。なお電力の観点では、フランスは米国に次ぐ原子力発電大国です。これが炭素強度の低さの根本的な要因ではないでしょうか。
他には、カナダリージョンは少々惜しい気もします。カナダリージョンは現在「中部」と記載があるため、恐らく中央のアルバータ州あたりに存在すると思われるのですが、95% 以上の再生可能エネルギーはクリアしています。
これがケベック州あたりにデータセンターがあると、十分にサステナビリティなリージョンになれそうです。
サステナビリティの柱のリスクレベルについて
サステナビリティの柱は、全ての項目が「中」もしくは「低」のリスクレベルに設定されています。このため、Well-Architected Tool の回答において、サステナビリティの柱の全てを該当ワークロードにおいて加味していなかったとしても「高」のリスクレベルは結果に現れません。
このため、サステナビリティの柱は「このような観点がある事を新たに発見する」という視点が大きい柱でもあると感じます。
と、記載はしましたがリスクレベル「高」がないから蔑ろにしても良い、ということではありません。発見した結果として、後に可能な範囲でうまく取り入れて頂ければと存じます。
北欧はなぜ炭素強度が非常に低いのか
さて、ここまでを振り返ってみて、私には1つ疑問がわきました。
北欧、それもスウェーデンでは「なぜ炭素強度が非常に低い」のでしょうか?
実際に Electricity Maps ではスウェーデンとお隣のノルウェーで、全てが緑色に染まっています。
ということで、スウェーデンにおいて二酸化炭素排出量が少ない理由をもう少し探ってみます。
炭素強度が低く保てる背景(その一部)
ここで時間をかけるといつまでも調査が終わらないため、ChatGPT さんと会話したり、気になる海外ニュースなどを読んでみたりしました。
とっかかりとして読みやすいのは「国際エネルギー機関、低炭素型社会への移行で首位はスウェーデンと報告」というニュースがあります。これは国際エネルギー機関(IEA)が出している英語のニュースがソースです。
これを見るだけでもわかる通り、スウェーデンは低炭素型社会への移行で首位であると IEA に評価されており国をあげての取り組みがうまく進んでいるようです。
加えて、電力が自然エネルギー(再生可能エネルギー)である「風力発電」と「水力発電」で賄われているというのも大きなポイントです。「石炭」や「天然ガス」などを利用すると、すぐに二酸化炭素排出量が上昇してしまいます。
なおスウェーデンでは、原子力発電も利用されています。「ロイターの今年の記事」にも記載がありますが、再生可能エネルギーは電力供給が不安定になりやすいため、原子力発電で下支えをする必要がある、というのが実情のようです*2。
またスウェーデンは人口が2022年現在 1,055 万人程度です。「風力発電」と「水力発電」は自然現象を利用するため、これだけで安定したエネルギーの供給は難しいでしょう。人口が1千万人程度であることは再生可能エネルギーが占める割合を高めている背景の1つと考えられるかもしれません。
ただ、スウェーデンの人口は長期にわたり増加傾向です。今後の人口増加に伴い、原子力発電の占める割合や依存度は高まっていく可能性もあるでしょう。
まとめ
今回は、AWS Well-Architected Framework サステナビリティの柱の1つ目のベストプラクティスである SUS01-BP01 Choose Region based on both business requirements and sustainability goals
について詳しく掘り下げてみました。
結論としては「ストックホルムリージョン」が第1の選択肢となるということと、他には「パリリージョン」もそれに値するであろうことを記載しました。
加えて、COST07-BP02 にも言及し、それぞれの柱を鑑みながら適切な判断を行う必要があることも補足しております。
AWS Well-Architected Framework サステナビリティの柱のレビューを開始したお客様が最初に少し悩まれるのは本項目かと存じますため、このブログがそのようなお客様の助けになれば幸いです。
では、またお会いしましょう。
*1:GHG Protocol については https://www.env.go.jp/council/06earth/y061-11/ref04.pdf をご参考ください
*2:エネルギーミックス(ベストミックス): ある地域や国が利用するエネルギー源の組み合わせのこと。通常複数のエネルギー源(再生可能エネルギーや化石燃料、原子力発電等)を組み合わせ安定した電力供給や持続可能性を追求する
佐竹 陽一 (Yoichi Satake) エンジニアブログの記事一覧はコチラ
マネージドサービス部所属。AWS資格全冠。2010年1月からAWSを利用してきています。2021-2022 AWS Ambassadors/2023-2024 Japan AWS Top Engineers/2020-2024 All Certifications Engineers。AWSのコスト削減、最適化を得意としています。