ウォーターポジティブのコミットメントに関連して AWS のサステナビリティ動向を振り返る

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カスタマーサクセス部 佐竹です。
2022年最後のブログとして、AWS re:Invent 2022 でアナウンスされたウォーターポジティブのコミットメントに関連して AWS のサステナビリティ動向を振り返ります。

本ブログを読むことで AWS がウォーターポジティブを宣言するに至った背景を踏まえてご理解いただけるように記載しました。

はじめに

本ブログはカテゴリーを「AWS re:Invent 2022」としている通り、メインはプレスリリースが打たれたウォーターポジティブ(Water+)の話となっています。

aws.amazon.com

ですが、このリリースだけを見ても前後関係がわからない方も多いと思われますので、ここ数年に渡って AWS が環境問題にいかに取り組んできたのか少しまとめながら解説していきます。

著者の環境に関する経歴

余談ではありますが、私は大学で環境科学を専攻しており、環境科学学士を取得しています。卒業論文では、スギの立ち枯れに関する基礎調査を行いました。

また、大学院では農学部において主に森林と光合成に関する研究をしていました。修士論文は、クロロフィル蛍光を用いた非破壊調査に関するもので、農学修士を取得しています。

このように6年間に渡っての自然や環境問題に関する学業経験を有しているため、サステナビリティに関してある程度語る資格があるのではと考え、今回初めての試みですが AWS のサステナビリティに関するブログを書いてみています。

AWS のサステナビリティに関する動向を振り返る

まずはここ数年間の振り返りを行っていきましょう。

The Climate Pledge

これは厳密には AWS ではなく Amazon の誓約になりますが、2019年9月 Amazon は「The Climate Pledge」を立ち上げました。

www.aboutamazon.jp

Global Optimism と共同で立ち上げられたこの誓約(Pledge)は、パリ協定の目標達成を10年間早めるものです。

このパリ協定 (Paris Agreement) の目標達成とは、2050年までに Carbon Neutral を目指すこととされています。

加えて、「パリ協定」についての説明は資源エネルギー庁の記事がわかりやすいのでご紹介します。

www.enecho.meti.go.jp

2050 年はどこから

資源エネルギー庁の記事を見て頂くとわかる通り、実はここには一言も「2050年」という数字は出てきません。

パリ協定の長期目標は主に以下の2点です。

  1. 世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする
  2. そのため、できるかぎり早く世界の温室効果ガス排出量をピークアウトし、21世紀後半には、温室効果ガス排出量と(森林などによる)吸収量のバランスをとる

※先のブログより引用させて頂きました

このうち「産業革命以降の温度上昇を1.5度以内におさえるという努力目標」を達成するためには2050年までのカーボンニュートラルを実現させる必要があると考えられており、そのため各国は「2050年のカーボンニュートラル実現」を宣言しています。

日本でも、2020年10月にこの宣言がなされています。参考までに、経済産業省のリンクをご紹介します。

www.meti.go.jp

なお、この「1.5度努力目標」に関しては環境省が公開している「環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書」の「第1章 1.5℃に向けて」が、気象災害などの背景含めて理解するのにお勧めです。

さて The Climate Pledge に話を戻しますと、先の「2050年のカーボンニュートラル実現」ですが、Amazon がこれを10年前倒して2040年に目標を達成するとしているのが The Climate Pledge となります。

この誓約はパリ協定のように「国単位」で行われているものではなく、「企業」が参加している点が特徴的です。

press.aboutamazon.com

The Climate Pledge 現在もなお参加する企業が増えており、2022年3月には300以上の企業が参加表明をしているとのことです。

クラウドへの移行による、アジア太平洋地域での二酸化炭素排出削減の実現

2021年8月、AWS は以下のニュースと共に「クラウドへの移行による、アジア太平洋地域での二酸化炭素排出削減の実現」と題したレポートを発表しています。

aws.amazon.com

このレポートは日本語で提供されており、平易な言葉で書かれているため非常に読みやすく、一読することを強くお勧めしたいレポートとなっています。

ざっくりと本レポートの概要を記載しますと、オンプレミスと比較して AWS が提供するクラウドインフラストラクチャはエネルギー効率が非常に高いために、クラウドへワークロードを移行することで5倍近いエネルギー効率が達成可能と書かれています。つまり、エネルギー消費量を平均で 80% 減らせる (20% で済ますことができる) ということです。

なお、付録として P.27 では日本について言及されています。日本ではサーバーのライフサイクルが長いために、よりエネルギー効率が良い新規プラットフォームの導入が遅くなることから、IT エネルギー効率は APAC の平均を下回っているとのことです。

結論としては、AWS などのクラウドインフラストラクチャにワークロードを移行することで、よりエネルギー効率が改善され、そして二酸化炭素排出量が削減されることから、企業はサステナビリティに貢献できます。

Sustainability pillar

2021年12月、re:Invent 2021 で AWS Well-Architected Framework の6つ目の柱として「持続可能性の柱」が追加されました。

aws.amazon.com

本アップデートは長らく5つで保持されてきた AWS Well-Architected Framework に6つ目が追加されたということでかなりセンセーショナルなアップデートとなりました。

以下がそのホワイトペーパーです。

docs.aws.amazon.com

「持続可能性の柱」のホワイトペーパーは2022年10月20日に最新化されており、現在は日本語でも閲覧が可能です。

「持続可能性の柱」の特徴的な点は、「持続可能性の責任共有モデル」が作成されたことでしょう。

AWS には古くから「責任共有モデル」という概念が提唱されており、これは AWS を学習する上で最初期に学ぶ概念の1つです。

aws.amazon.com

セキュリティとコンプライアンスにおいて、利用者は本共有モデルをしっかりと念頭に置く必要があります。

これに加えて、今後は「持続可能性の責任共有モデル」にも十分な理解が必要となってくるでしょう。

持続可能性の責任共有モデル

Shared responsibility model (Sustainability)

本画像は、以下のドキュメントより引用しております。日本語版はわかりにくかったため、英語の画像を利用しております。

docs.aws.amazon.com

これを、セキュリティに関する責任共有モデルと比較してみましょう。

Shared responsibility model (Security)

in / of という前置詞で比較されている点も含めて、これらは基本的にはほぼ同じ概念となっていることがわかります。

「持続可能性の責任共有モデル」では、インフラストラクチャの冷却や水、廃棄や電力については AWS が責任を持って対応する範囲とされており、AWS を利用する我々は持続可能性に配慮したソフトウェア/アプリケーションの設計や効率化が責任範囲となります

これはつまり、ハイスペックなインスタンスを利用して(お金を投じて)速度を改善するのではなく、そもそものコードを効率化し、ハイスペックが要求されないようにしていく責任が利用者側にあります。

関連して、これまでの AWS におけるコスト最適化は、利用者側がそのコストのみを焦点に対応してきたかと思いますが、今現在はサステナビリティ視点からもコスト最適化は重要になってきています。無駄な費用を発生させていることは「サステナブルではない」ということになってきている状況です。

Graviton アーキテクチャの有効活用

AWS は毎年アーキテクチャを刷新したインスタンスを発表しており、特に Arm ベースの Graviton は非常に費用対効果の高いインスタンスです。

Arm ベースのため、特に EC2 インスタンス上のワークロードの移行にはハードルを伴いますが、今後サステナビリティの観点からも Graviton に注目したいと思います。

re:Invent 2022 で新しく発表のあったインスタンスに関しては以下にまとめていますので、合わせてご覧ください。

blog.serverworks.co.jp

なお、RDS (Aurora) では db.r6g インスタンスに切り替えることで Graviton を活用できます。EC2 インスタンスと異なり Aurora は AWS が OS の管理をしているため、殆どハードルなく Graviton の恩恵にあずかれます。

以下は db.r6g が一般利用可能となった際に記載したブログとなっております。こちらも、宜しければ合わせてご覧ください。

blog.serverworks.co.jp

ウォーターポジティブに向けたコミットメント

ここでやっと re:Invent 2022 の話題となります。2022年11月28日、AWS は2030年までにウォーターポジティブ(Water+)を達成することをコミットしました。

aws.amazon.com

ウォーターポジティブとは、水を「+(プラス)」にするということであり、その地域において「事業で使用した量」以上の水を地域・社会に還元することを言います。

このアナウンスに関連して、AWS は WUE を発表しました。WUE(水利用効率性)はデータセンターにおいてどれだけ水を有効活用できているかを測る指標であり、これは低いほど良いとされています。

AWS の発表によると、2021年度は WUE が 0.25 リットルであったとのことで、これはデータセンターの平均的な WUE とされている 1~2 リットルを大きく下回っているということです。

本指標が公表されたことには大きな意味があるでしょう。WUE がより強く意識されると、これを引き下げる競争が起きると考えられますので、今後は各データセンター事業者間で WUE の引き下げ合戦が起きていくと想像しております。

Water Stewardship

sustainability.aboutamazon.com

ウォーターポジティブの実現に関して、Water Stewardship (ウォータースチュワードシップ)という言葉についても少し記載をします。

「スチュワードシップ」という言葉は、日本では主に機関投資家に関して使われる言葉だと認識しています。

www.daiwa-am.co.jp

この場合には「資産の管理責任」という意味となっていますが、本来このスチュワードシップという言葉は、環境や自然、経済や健康等にも適用されるものです。

en.wikipedia.org

これを「水」に当てはめたものがウォータースチュワードシップ(水資源管理責任)となっており、AWS はデータセンター事業者として地域の水を正しく計画・管理する責任があります。このため、ウォーターポジティブは、このウォータースチュワードシップの一部であると言えます。

Water stewardship and renewable energy at scale (SUS211)

ここでウォータースチュワードシップとウォーターポジティブに関する有用なセッションを1つご紹介します。

youtu.be

セッションの注目ポイント

本セッションではまず初めに「気候変動」とそれによる影響で「水量・水質・水へのアクセス」という3点についての課題が悪化してきている背景が語られます。そして、データセンターでは冷却のために多くの水を利用しています。

このため、AWS には「水量・水質・水へのアクセス」という3点が悪化しないよう配慮する責任が発生します。もしデータセンターが冷却のために多くの飲料水を使ってしまうと、地域から生活のための水を奪ってしまうことになるからです。

AWS はデータセンターにおいて WUE が 0.25 リットルを達成するために多くの努力をしています。その仕組みをスライドにまとめると以下のようになります。

WUE 0.25ℓ とその仕組み

  1. recycled water:再生水の利用
  2. rainwater harvesting:雨水貯留とその活用
  3. evaporative cooling system:気化冷却システム

この3点が特に興味深い内容となっています。「サーバーを冷却するには飲料水でなくともよい」というのは当たり前の話ではあるのですが、言われてみてはじめて「確かに」と思わされました。

また灌漑に利用ができるよう、水が汚染されていない状態で地域へと還元する点も、今後のウォーターポジティブに対する行動として素晴らしいものだと感じました。

本セッションのプレゼンテーションには多くの画像や動画が使われており、視覚的にも理解が深まる内容となっています。一度見て頂ければ嬉しく思います。

Evaporative cooling system

先に記載しました気化冷却システム(Evaporative cooling system)と呼ばれる仕組みの詳細は以下にも記載がありますので、合わせてご覧ください。

www.aboutamazon.com

まとめ

本ブログでは、ここ数年の AWS のサステナビリティに関する動向を振り返りつつウォーターポジティブのコミットメントに関連して記載させて頂きました。

セキュリティとサステナビリティの2つの責任共有モデルを比較し、さらにコスト最適化を踏まえた状況について記載しました。この点は今後より重要になっていくと考えています。

なお、日本では水が豊富にあることで、飲料水に対する環境意識はそこまで高くないと思われます。ただ、世界においては飲料水の問題は今後深刻になると考えられており、サステナビリティにおいてより注目されていくことでしょう。

本ブログを読むことで、AWS がウォーターポジティブに向けて努力している背景を少しでもご理解頂けたら幸いです。

オンデマンドセミナーのご紹介

www.serverworks.co.jp

先日開催しました「AWS re:Invent 2022 総括」ウェビナーが現在オンデマンドで提供されております。

本セミナーでは、先に記載しましたウォーターポジティブについても少し話題にさせて頂きました。もしよろしければ合わせてご覧頂けますと幸いです。

では、また来年もブログでお会いしましょう。

佐竹 陽一 (Yoichi Satake) エンジニアブログの記事一覧はコチラ

マネージドサービス部所属。AWS資格全冠。2010年1月からAWSを利用してきています。2021-2022 AWS Ambassadors/2023 Japan AWS Top Engineers/2020-2023 All Certifications Engineers。AWSのコスト削減、最適化を得意としています。