AWS Network firewall の HOME_NET 変数が変更可能になったので触ってみた

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こんにちは。カスタマーサクセス部の山本です。
夏らしい気温になってきて、半袖を着る機会も増えていきそうですね。
綺麗な川を見ると飛び込みたくなります。
実際にもう 10回ぐらい飛び込んだりもしました。

低い山にも雪の残っていた 5月の初旬に「AWS Network Firewall が Suricata HOME_NET 変数の上書きに対応」というアップデートがありました。
AWS Network Firewall が Suricata HOME_NET 変数の上書きに対応

私も2022年に案件で困ったことが 2 回ほどあり、AWS サポートに機能要望を 2回ほど挙げていました。
アップデートが来て嬉しかったものの、5, 6月がとても忙しく、今週になってようやく試してみることができました。

具体的には、以下のブログで触れていた部分が改善されています。

AWS マネージドルールグループの注意点 (重要)

AWSマネージドルールでは 「HOME_NET」 変数 (=フィルタリングするときに「送信元」になるCIDR 範囲)を変更することはできません
「HOME_NET」 変数 には AWS Network Firewall を配置した VPC の CIDR が入ります
そのため Transit Gateway などを用いて 監査VPC に集約した 通信をフィルタリングしている場合には注意が必要です
「HOME_NET」 変数 (=送信元のCIDR 範囲) が 監査 VPC の CIDR 範囲になってしまうため正常にフィルタリング出来ません
その場合は 自身で Suricata互換の侵入防止 (IPS) ルール (ステートフル) を作成する必要があります
(通信元となるコンポーネントが AWS Network Firewall を配置した VPC と同じ VPC にいないと使えません)

https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/s/swx-yamamoto/20220315/20220315234421.png

引用元:
blog.serverworks.co.jp

簡単に書くと・・・
AWS マネージドルールの HOME_NET 変数は、AWS Network Firewall のエンドポイントを配置した VPC の CIDR になってしまいます。そのため、AWS Network Firewall を集約構成にすると、HOME_NET 変数の CIDR は集約(監査)用 VPC となってしまい、他の VPC からの通信を評価できない。ということですね。「AWSマネージドルールを適用したつもりが、実はできてなかった。」ということも起きそうな気がします。

アップデート内容をもう少し補足します

AWS Network Firewall は以下の 3つの要素で構成します。

  • Firewalls
  • Firewall policies
  • Network Firewall rule groups

ネットワークファイアーウォール(Firewalls)を作成すると、VPC内にファイアーウォールエンドポイントが 1つできて、ファイアーウォールポリシー(Firewall policies)が 1つ紐付きます。
ファイアーウォールポリシー(Firewall policies)には、ルールの適用方法や評価順序を指定します。そして、適用するルールグループ (Network Firewall rule groups) を複数紐づけることができます。
適用するルールグループ(Network Firewall rule groups) には、具体的な検知ルール(5タプルルール、ドメインリスト等)を記述します。
ルールグループ(Network Firewall rule groups) にはルールを使って評価する送信元 IP アドレス (HOME_NET)を指定可能です。
送信元 IP アドレス (HOME_NET)の指定の仕方は、以下があります。

  • Default
    • Firewall Endpoint を配置した VPC の CIDR
  • Defined
    • 自分で定義する Cidr範囲

ルールグループの作成画面だと以下の箇所です。

Default というのは、ルールグループ (Network Firewall rule groups) の入れ物であるファイアーウォールポリシー(Firewall policies)に定義する HOME_NET 変数のことで、今までは変更不可でした。
本アップデートで、変更可能になりました。
🎉

AWS マネージドルールを使用する際には、送信元 IP アドレス (HOME_NET)に Defined (自分で定義)を指定することができません。
必然的に、AWS マネージドルールを適用する送信元 IP アドレスは、Default (Firewall Endpoint を配置した VPC の CIDR)になります。
本アップデートで、Default を変更可能になったため、集約構成で AWS マネージドルールを使用できるようになりました。

イメージ図:

アップデートを試してみる。

前提環境

以下の構成で試してみました。
「監査用VPC」と「VPC 1」にある EC2 が、「監査用VPC」にある NAT Gateway を使用して、インターネットに向けて通信します。
その際に、行きの通信と帰りの通信で「監査用VPC」にある Network Firewall Endpoint を通ります。
「VPC 1」の EC2 は Transit Gateway 経由で 「監査用VPC」に通信します。

CIDR は以下です。

  • 「監査用VPC」の CIDR は 10.0.0.0/16
  • 「VPC 1」 の CIDR は 172.16.1.0/24

HOME_NET 変数に上記の CIDR 2つを入れて、AWS マネージドルールで評価できるか見てみます。

HOME_NET 変数の変更方法

ファイアーウォールポリシー (Firewall policies)の作成時に指定する場所があります。(一番下の policy variables)

既存のファイアーウォールポリシー (Firewall policies)では、以下の場所から変更できます。(一番下の policy variables)

1行毎に CIDR を 1つ追加します。

実験

amazon.com へのアクセスを拒否するドメインリストルールを作成します。

ファイアーウォールポリシー (Firewall policies)の HOME_NET 変数を変えてみます。
最初は、「VPC 1」 の CIDR と「監査用VPC」の CIDR を両方 HOME_NET 変数 に入れます。

  • 10.0.0.0/16
  • 172.16.1.0/24

「VPC 1」「監査用VPC」 の EC2 で想定通りアクセス拒否になりました。

以下は alert ログです。

次に、「監査用VPC」の CIDR のみを HOME_NET 変数 に入れます。

  • 10.0.0.0/16

「監査用VPC」 の EC2 は、想定通りアクセス拒否になりました。
また、「VPC 1」の EC2 は想定通りアクセス可能でした。

以下は alert ログです。(「監査用VPC」 の EC2 のみアクセス拒否になったためログが存在)

HOME_NET 変数に任意のIPv4アドレスを意図して 0.0.0.0/0 を指定してはいけない

HOME_NET 変数にたくさんのCIDR を指定するのを避けるために、 0.0.0.0/0 を指定してみました。

結果、Session Manager に繋がらなくなりました。EC2 が NAT Gateway 経由で SSM のエンドポイントに通信できなくなりました。

ログも出ないようです。

その後、本国の AWS の方から緊急のメールが届き、「0.0.0.0/0 は不適切な値なので、対象の Network Firewall が壊れました。適切な値に修正してください。」とのことでした。
関係者の方、お騒がせしました。🐱
以下ドキュメントを案内されました。(0.0.0.0/0 は駄目とは書いてないものの、そういう仕様なようです。)

For Policy variables enter one or more IPv4 or IPv6 addresses in CIDR notation to override the default value of Suricata HOME_NET. If your firewall is deployed using a centralized deployment model, you might want to override HOME_NET with the CIDRs of your home network. Otherwise, Network Firewall uses the CIDR of your inspection VPC.

Creating a firewall policy - AWS Network Firewall

まとめ

ファイアーウォールポリシー (Firewall policies)の HOME_NET 変数を変えられるようになったので、AWS Network Firewall の集約構成を取りやすくなりました。🎉

余談

自分の歩いた軌跡を Yamap (https://yamap.com/) で記録しています。
もう少しで、東京湾から長野県松本市までの軌跡が繋がりそうで、嬉しいです。

山本 哲也 (記事一覧)

カスタマーサクセス部のエンジニア(一応)

好きなサービス:ECS、ALB

趣味:トレラン、登山(たまに)