
こんにちは、サーバーワークスで生成AIの活用推進を担当している針生です。
AI-DLC(AI-Driven Development Life Cycle)は、Inception・Construction・Operation の3フェーズで構成されています。このうち Operation フェーズは、公開されている AI-DLC Workflows v1.0 ではプレースホルダーと書かれているだけで、具体的な中身がありませんでした。
そんな Operation フェーズの進め方が、AWS Summit Japan 2026 のセッション「Operation Phase of AI-DLC - AI 駆動カオスエンジニアリングのすすめ- [DVT452]」で語られていました。この記事では、その内容をレポートとしてまとめます。
Operation フェーズとは何か
AI-DLC Workflows v1.0 では、Operation フェーズはプレースホルダーとだけ書かれ、中身は今後の拡張に委ねられていました。
一方、AI-DLC のホワイトペーパーには、Operation フェーズが目指すものが書かれています。要約すると次のとおりです。
- システムのデプロイ・オブザーバビリティ・メンテナンスを中心に、AI で運用効率を高める
- AI がテレメトリ(メトリクス・ログ・トレース)を能動的に分析し、異常の特定や SLA 違反の予測を行う
- AI がランブックと連携して推奨アクションを提案・実行し、人間が検証・承認する
AI-DLC の各フェーズは「プラン ⇒ レビュー ⇒ 実行 ⇒ レビュー」という共通のループ(Human in the loop)で進みます。上の記述もこのループに対応しており、Operation フェーズも進め方の骨格は他フェーズと同じです。

ただし運用は、CI/CD・障害対応・DR・可用性・セキュリティ・コスト(FinOps)など守備範囲が広く、一律に定義しづらい領域です。また、運用は開発が終わってから始まるものではなく、ベースラインの要求や改善点を Inception / Construction にフィードバックする役割も持ちます。
Operation フェーズの始め方
セッションでは、3段階で始めることが示されていました。
- 既存の運用に乗せる(利用中の CI/CD やオブザーバビリティツールにまず乗せる)
- 今できていないことを AI で改善する(セキュリティテストの自動化、ランブックの整理など)
- AI を活用した運用(AIOps)へ(AI がアクションを提案し、自律的に解決する)

ここで印象的だったのが「AI はワープではなく加速」という考え方です。運用の成熟度は取り組みの積み重ねで上がっていくもので、AI で一気に高い段階へ飛び越えることはできません。オブザーバビリティ・ランブック・ガードレール・自動化といった土台を整えたうえで、その改善を AI で加速する、というのが現実的な道筋です。

リスクストーミング × カオスエンジニアリング
セッションのハイライトが、副題にもなっている「AI 駆動カオスエンジニアリング」です。実際の運用に入る前に「運用への自信」を作るために、リスクストーミング(計画)とカオスエンジニアリング(実験)を組み合わせる、というアプローチが提案されました。
リスクストーミングは、Simon Brown さんが提唱したアーキテクチャリスクの特定手法です。アーキテクチャ図の上でリスクを可視化し、6カテゴリ(スケーラビリティ・可用性・パフォーマンス・セキュリティ・データ完全性・回復性)で洗い出して、影響度 × 発生確率で優先度をつけます。

カオスエンジニアリングは、Principles of Chaos Engineering の定義によれば「システムが本番環境の不安定な状況に耐えられる」という自信を構築するための実験です。ランダムに壊すこと自体が目的ではありません。「想定済みの障害だが、影響がどこまで波及するか分からない(Known Unknowns)」領域を、実験で確かめて明らかにしていきます。

この2つは、Operation フェーズの基本ループにきれいに対応します。
- リスクストーミング = プラン ⇒ レビュー(リスクを洗い出して優先度をつける)
- カオスエンジニアリング = 実行 ⇒ レビュー(実験で確かめて学ぶ)
リスクストーミングで洗い出したリスクが、そのままカオス実験のシナリオ候補になります。どちらも本来は準備と実行が大変な手法ですが、アーキテクチャ図の生成やファシリテーション、記録などを AI で肩代わりすることで加速できる、というのがポイントです。
さらにこの組み合わせは「自動化バイアス(AI の出力を鵜呑みにしてしまう傾向)」への対抗にもなります。リスクストーミングで AI の出力を疑い、カオスエンジニアリングの実験で "未知" を "既知" に変えていく、という流れです。
まとめ
- Operation フェーズは、AI-DLC のアプローチ(プラン ⇒ レビュー ⇒ 実行 ⇒ レビュー)を運用に活用すること
- 進め方は3段階。既存の運用に乗せる → 今できていないことを AI で改善する → AI を活用した運用へ
- 実運用前の検証・実験も AI で効率化できる。その一例がリスクストーミング × カオスエンジニアリング
AI は運用の成熟度を一気に上げる魔法ではなく、これまでの積み重ねを加速するもの、という捉え方が一貫していました。準備が大変で敬遠されがちだった手法も、AI で加速できるなら試すハードルは下がります。運用フェーズこそ、まず小さく試してみるのがよさそうだと感じたセッションでした。
参考
針生 泰有(執筆記事の一覧)
2026 Japan AWS Top Engineer(AI/ML Data Engineer)
サーバーワークスでAI活用推進を担当