はじめに
システムのマルチリージョン化により、リージョン障害時のサービス停止リスクの低減と、ユーザーに近い場所からサービスを提供することによるレイテンシーの改善を図ることができます。特に大規模なシステムではマルチリージョン化を検討するケースは多いと思いますが、どのように進めていくべきか頭を悩まされる方は多いのではないでしょうか。
AWS Summit Japan 2026のセッション「140,000 サーバー・900PB のリージョン移行: Amazon 最大規模の事例に学ぶ実践知 [MAM328]」では、Amazonが実際に経験したリージョン移行の進め方が紹介されておりましたので、セッションの内容を整理し、そのポイント4つを記載します。
なおAmazonがマルチリージョン化に踏み切ったモチベーションとして、以下の2点が挙げられていました。
- 単一リージョン依存の低減(レジリエンスの向上)
- ユーザーレイテンシーの低減
本記事がマルチリージョン化を検討されている方の気づきになれば幸いです。
マルチリージョン化のポイント
IaCによるシステム管理
IaCによるシステム管理の重要性が紹介されていました。
IaCによってシステムを管理することで、構築の工数・ミスの削減を行うことができます。また、将来的なシステムの再構成や復旧にも利用できます。システムの運用が長期化すると、IaCがシステム構成の台帳の役割を果たし、サービスの棚卸ができるようになるのも大きなメリットです。
ハードコードの解消
Amazonのシステムのコードでは、リージョン情報がハードコードされており、マルチリージョン化の障害となっていたようです。ハードコードによる弊害として以下の点が挙げられます:
- 新リージョンへの展開時にコード修正が必要になる
- 技術的な依存関係が生まれ、部署間の調整コストがかかる
ハードコード解消のために、セッションではLRA(Logical Region Alias)という仕組みが紹介されていました。各サービスはリージョン固有のエンドポイントではなく、リージョン共通のエイリアスで定義されたエンドポイントを参照します。新リージョン追加時はLRA側の設定にマッピングを追加するだけで、呼び出し側の変更は不要になります。また、設定内のリージョン名を$REGION$のようなプレースホルダーに置き換えることで、リージョン固有の値を直書きしない構成にする対応も紹介されていました。これにより、新リージョン追加時にサービス側の設定変更が不要な状態(Move-in Ready)の実現を目指したとのことでした。

AIによるコード変換
7,800サービスに対してハードコードの解消を人手だけで進めるのは現実的ではありません。本件ではAmazon Qを活用し、設定のコード変換を行った事例が紹介されていました。大文字で重要ルールを記述、脅威的プロンプトの利用(「間違えるとサービスが停止する」のような表現を使う)、プロンプトの構造化などAIによるコード変換で効果的だった手法を紹介していました。

AIを使った本番ワークロードのコード変換の成功事例は、AI活用の意思決定のハードルを下げてくれるのではないでしょうか。
DBの整合性設計の見直し
すべてのデータに強整合性を求めると、書き込みのたびにリージョン間の往復通信が発生し、レイテンシが増大します。例えば東京とバージニア間では往復で約150ms程度の通信遅延があるため、強整合性を取るだけで書き込みの応答時間が大幅に伸びます。また、リージョン間の通信が途絶えた場合、合意が取れず書き込みを受け付けられなくなるリスクもあります。マルチリージョン化の目的が可用性の向上であるにもかかわらず、強整合性がそれを打ち消してしまう場合があります。
ワークロードごとにDBの整合性の要件を精査することもポイントの1つとして紹介されていました。すべてに強整合性を適用するのではなく、ワークロードごとに強整合性or結果整合性の採用をしっかりと考え、レイテンシと可用性のバランスを保つことが大切です。
まとめ
本セッションで紹介されたマルチリージョン化のポイントは以下のとおりです。
- IaCによるシステム管理:手動ミスの防止と、長期運用における構成の台帳として活用する
- ハードコードの解消:LRAや
$REGION$プレースホルダーにより、リージョン固有の値を排除する - AIによるコード変換:適切なプロンプトの構造を意識する
- DBの整合性設計の見直し:すべてに強整合性を求めず、ワークロードごとに要件を見極める
最後に
私自身初のAWS Summitでした。AIブームもあってか物凄く活気に溢れており、圧倒されました。入場の行列が凄かったので次回からはもっと早起きを頑張りたいです。

小川 貴史(記事一覧)
クロスインダストリー第2部カスタマーサクセス課