AWS Summit New York City 2026のキーノートで語られた、AIエージェントを本番投入した企業に起きたこと

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はじめに

今月誕生日の人、おめでとうございます🎉 エデュケーショナルサービス課の森純子です。

2026年6月25日〜26日に、AWS Summit Japan 2026が幕張メッセで開催されます。その予習として、6月17日にニューヨークで開催されたAWS Summit New York Cityのキーノートを視聴しました。

AWS Summit Japan 2026: aws.amazon.com

AWS Summit New York City 2026: aws.amazon.com

新機能の一覧については、AWS公式ブログ「ニューヨークで開催される 2026 年の AWS Summit に関する主要なお知らせ」にまとまっていますので、そちらをご覧ください。

aws.amazon.com

本記事では、公式ブログでは触れられていないキーノートの導入事例から、「何が問題だったのか、AWSを使ってどう変えたのか。その結果こうなった」を私の視点で読み解いてみます。

なお、キーノート視聴時の文字起こしや私の耳、メモをもとに構成しており、読みやすさのためにトーク順ではなく論理構造(課題→施策→結果)で整理しています。固有名詞や数字は聞き取りに基づくため、正式な発表内容はAWS公式オンデマンドをご参照ください。

AWS SUMMIT NEW YORK CITY Keynote Image

キーノートを貫くテーマ: 「Compounding momentum (加速する勢い)」

キーノートの登壇者は、Dr. Swami Sivasubramanian氏(AWS VP, Agentic AI)、Bryan Roper氏(AWS、Amazon Quickデモ担当)、Chet Karoor氏(AWS VP, Search, Security, & Observability)、Lauren Woods氏(Southwest Airlines EVP & CIO)の4名です。

Swami Sivasubramanian氏(以下、Swami氏)が繰り返し語ったのは「Compounding momentum(加速する勢い)」という概念でした。

エージェントは正しく構築すれば、使うほどコンテキストが蓄積され、コンテキストが増えれば結果が良くなり、結果が良くなれば信頼が増し、信頼が増せばさらに多くの仕事を任せるようになる。この好循環が雪だるま式に加速し、早く始めた組織と躊躇してる組織の差は日に日に広がる、というメッセージと受け取りました。

それを裏付けるように、キーノートでは複数の企業の成果が紹介されました。

事例で見る「加速する勢い」の実態

1. Southwest Airlines(Lauren Woods氏、Executive Vice President & CIO登壇)

Southwest Airlinesは毎日70,000人以上の従業員をサポートするテクノロジーエコシステムを持ち、座席販売からフライト運航まで航空会社のほぼすべてを支えています。

2022年の冬季嵐Elliottによる大規模な運航混乱を経験しました。このとき、個々のシステムは設計通りに動いていたものの、全体が同時に高速かつ大規模に連携する設計にはなっていませんでした。復旧には、システム全体の可観測性、意思決定と実行のスピード、並行して動く能力が必要でした。この教訓を契機に、AWSを優先クラウドパートナーとして選定し、技術基盤の近代化に着手しています。

具体的な成果として以下が語られました。

  • Amazon Quick(AIアシスタントサービス。複数システムを横断してデータ検索・レポート生成を行う)

    • 課題: ペタバイト級の運賃・収益データやコールセンターの行動トレンドを事後に確認しており、データ・インサイト・意思決定が行動のポイントから遠かった
    • 施策: Amazon Quickを経営層が毎日利用し、これらのデータとリアルタイムでやり取りする形に移行
    • 結果: 回答に至る速さとリーダーシップチームとしての意思決定の方法が変わった
  • Kiro(AIエンジニアリングエージェント。仕様→設計→テスト→コード生成の順序で正確なコードを出力する)

    • 課題: southwest.comプラットフォームがレガシーアーキテクチャ上に構築されており、急速な近代化が困難だった
    • 施策: Kiroを2,700人以上の開発者(エンジニアリング組織の約2/3)に展開し、ユニットテスト自動化、Infrastructure as Code生成、オンボーディングの高速化に活用
    • 結果: 当初のタイムラインから3年短縮
  • AI Development Lifecycle(以下、AI DLC)

    • 課題: クルースケジューリングシステムが非標準の技術スタックでスケール困難。チームと運営の両方に摩擦を生んでいた
    • 施策: AI DLCで再構築をパイロット中。要件整理、早期テストを進行中
    • 結果: 初期段階で既に信頼性の向上を確認
  • 開発プロセス全体

    • 課題: (発言なし)
    • 施策: プロセスの早い段階でビジネス・プロダクト・エンジニアリング・アーキテクチャの各部門を集めた
    • 結果: 手戻りが減り全体的なデリバリーが速くなった。一部の開発ではサイクルタイムが週単位から日単位に短縮。品質とガバナンスも最初から組み込まれている

さらに、50年以上続いたビジネスモデルの変革(座席指定、エクストラレッグルーム、ベーシックエコノミー、手荷物料金の導入)と近代化を同時に進めています。「近代化してから変革」ではなく両方同時に行い、2028年までに完全クラウドベース環境への移行を目標としています。

Wall Street Journalで米国ナンバーワン航空会社に選出。J.D. Powerエコノミークラス顧客満足度5年連続1位。

Woods氏は「インフラを野望の天井にするな(Don't let your infrastructure be the ceiling on your ambition)」という言葉で締めくくりました。

2. GoDaddy(Swami氏による紹介)

ドメイン登録・ウェブホスティング大手のGoDaddyはAmazon Quickを導入しました。

  • 課題: クラウドエンジニアリングチームの38%が、6つの切断されたシステムにまたがるサポートチケット対応に追われていた
  • 施策: Amazon Quickを導入
  • 結果: 年間15,000時間の手作業を削減。インサイト取得が90%高速化。ドキュメント精度が75%向上

3. NBA(Swami氏による紹介)【施策・結果のみ】

  • 施策: Amazon Quickを使い、25年以上にわたるプロスペクトデータを構造化
  • 結果: インタラクティブなリーダーボード、プレイヤー比較、コンテキストベンチマークとして活用可能に

4. Dhan(Swami氏による紹介、インドのフィンテックユニコーン)

Dhanはトレーディングアプリ用のチャートプラットフォームを新規構築しました。

  • 課題: チャートはリアルタイムデータ処理、ビジュアライゼーション、ユーザーインタラクションの交差点に位置し、取引プラットフォームの中で最も複雑な技術の一つ。170以上のテクニカルインジケータを含み、各インジケータに固有のアルゴリズム・依存関係・エッジケース・レンダリング要件がある。従来の見積もりは12人以上のエンジニアで12〜24ヶ月
  • 施策: Kiroを活用
  • 結果: 1人のエンジニアが8週間で構築を完了。チームは他の領域で顧客により多くの価値を提供することに集中できるようになった

5. Amazonストア(Swami氏による紹介、自社事例)【施策・結果のみ】

数億人のAmazon Prime会員のショッピング体験を支えるチームの事例です。

  • 施策: 「Write it right → Ship it fast → Keep it modern」のループを全面採用
  • 結果: 正しいコードが本番に到達する速度が中央値で4.5倍改善。一部チームでは最大17倍。AI生成のコード変更が95%の精度で着地(人間のベースラインを超過)。以前は数ヶ月かかっていた機能が数週間で出荷可能に。このループは現在もAmazon全体の無数のチームに拡大中

6. SmugMug(Chet Karoor氏による紹介)

写真共有プラットフォームのSmugMugは、リリースを多く行う企業です。

  • 課題: リリース頻度を落とさずにアプリケーションセキュリティを検証する必要があった
  • 施策: AWS Continuum(AIベースのセキュリティ製品群。ペネトレーションテスト、コードレビュー、脅威モデリング、コード脆弱性対応を提供する)のペネトレーションテストを活用し、完全なコンテキスト認識型の侵入テストをオンデマンドで実行
  • 結果: 従来数週間かかっていた検証が数時間に短縮。コストも大幅に削減

7. T-Mobile、United Airlines(Swami氏による紹介)【施策・結果のみ】

  • 施策: AWS DevOps Agentを使用
  • 結果: 顧客に影響を与える前に本番環境の問題に対処

8. PGA Tour、Epsilon、Nasdaq、Thomson Reuters、Visa、Experian(Swami氏による紹介)

  • 課題: 本番エージェントの構築に数ヶ月かかっていた
  • 施策: Amazon Bedrock AgentCoreを使用
  • 結果: 数週間で本番エージェントを構築。PGA Tourはトーナメントカバレッジエージェントの作成速度を10倍に向上。Epsilonは生産性を3〜5倍向上。Nasdaq、Thomson Reuters、Visa、Experianは企業全体でエージェントを拡大中

9. AWS Continuum コード脆弱性対応のデザインパートナー(Chet Karoor氏による紹介)【施策のみ】

  • 施策: MongoDB、Rivian、Robinhood、Capital OneがAWS Continuumのコード脆弱性対応機能のデザインパートナーとして密接に協力(プレビュー段階)

事例に共通する構造

紹介された事例に共通しているのは以下の点と考えました:

  1. 全社が実環境で使っていること。Southwest AirlinesのAI DLCはパイロット段階ですが、それでも初期段階で信頼性向上を確認しており、机上検証で止まっている話は一つも出てきませんでした。
  2. 小さく始めて段階的に拡大している。Southwest Airlinesは最初からKiroを全社展開したのではなく、段階的に2,700人まで拡大しています。
  3. エージェントが肩代わりした時間を、顧客向けの新機能開発や新しいものの発明に振り向けていること。DhanもAmazonもそう語っています。

Swami氏が冒頭で語った「This is a virtuous cycle, and that is compounding momentum — once you have it, the gap between you and everyone who waited grows every single day.(これはビジネスの好循環であり、加速し続けるモメンタム(勢い)そのものです。一度このサイクルが回り始めれば、躊躇している競合との差は、日々圧倒的なものになっていくでしょう。)」というメッセージは、これらの事例で裏付けられていました。

これら3点は新技術導入の基本ですが、AIエージェントは使うほどコンテキストが蓄積されて賢くなるため、早く始めた企業ほど差が加速していきます。

所感

キーノートを通じて強く感じたのは、「エージェントの精度が100%でなくても本番に出して、フィードバックループで改善する」という姿勢が前提になっていることです。AWS Continuumが「観察モード→信頼構築→強制モード」と段階を踏む設計であること、Kiroが「仕様→設計→テスト→コード」という順序で正確性を確保する設計であることも、「完璧を待たずに始め、仕組みで精度を上げていく」という思想の現れだと受け取りました。

AWS Summit Japan 2026(6/25-26、幕張メッセ)に参加予定ですので、キーノートを比較したり、キャッチアップした最新情報を発信していきたいと思います。